- 日替わりコラム
Fri
3/19
2021
ゴキブリは熱帯原産で、寒い地域は苦手です。しかし、ヤマトゴキブリは日本に広く分布しており、関東地方では1年目は若齢で、2年目は終齢あたりで越冬し、初夏に成虫になります。真冬には氷点下になる地域で、いったいどのような寒さ対策をとっているのでしょうか。
越冬中の終齢幼虫を1分間に1℃ずつ下がるように冷やしていくと、0℃になっても凍りません。さらに冷やしていくと、マイナス6℃で少数の個体が凍ります。マイナス9℃になると、ほとんどの幼虫が凍ります。0℃以下でも凍らないのは、幼虫が過冷却状態にあるからです。水も少しずつ温度を下げると、場合によってはマイナス10℃以下になっても凍らないことがあります。幼虫の体液が凍る温度はマイナス23℃なので、体の消化管や筋肉などから凍るのかもしれません。
多くの昆虫は、凍ると死んでしまいます。すぐに死ななくても、体に障害が残って生きられません。しかし、マイナス6℃で12時間凍らせたヤマトゴキブリを25℃に戻すと、半数以上の幼虫が餌を食べ始め、その後脱皮しました。ヤマトゴキブリは、冬は氷の上でも歩くことができ(2020年1月号で紹介)、風の当たらない樹木の洞(うろ)の中などに集まって越冬します。このような行動と凍っても死なない能力が、ヤマトゴキブリが日本列島に広く分布できる理由のひとつなのでしょう。
参考文献:Tanaka, K., Tanaka, S.(1997)Zoological Science 14: 849―853.
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
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