- 日替わりコラム
Thu
8/12
2021
軟体サンゴのウミキノコ属は褐虫藻を体内に取り込み、共生関係を保っています。長い間、海洋生物が作る二次代謝産物の多くは、共生する褐虫藻や食物連鎖で捕食した微細藻類が作るとされており、ウミキノコ属が作るテルペン類※1 も褐虫藻が作っていると考えられてきました。
ある軟体サンゴを調べた結果、さまざまな化合物タイプが検出されましたが、種と特定の化合物タイプの間の関係性を明らかにできず、褐虫藻が作っていると確認できませんでした。
荒武※2 らは分子系統解析により、1種とされていたある軟体サンゴが多くの種に分かれたことから、この方法を使うことで多くの種と化合物タイプの関係を調べることができると考えました。沖縄産ウミキノコ属を解析したところ、大変興味深いことに、褐虫藻種と化合物タイプには関連性がないことが明らかになり、従来からの疑問に明確に答えた結果となりました。さらにウミキノコ属の分子系統解析と化合物タイプを比較すると従来の結果とは異なり、ある種では区別された系統と化合物タイプに関連性があることもわかりました。これまであやふやだったことが明らかになり、新たな発見となりました。海洋天然物の抗がん作用が注目されている折、軟体サンゴの二次代謝物の抗がん作用を解析する手がかりを得られた点が重要でしょう。
※1 多くの植物精油の主成分。揮発性が高く、特徴ある芳香を持った分子で、自然の中で感じる「よい香り」の多くは、このテルペンが生み出している
※2 荒武里依。琉球大学大学院理学研究科博士課程修了、理学博士。OIST、東大三崎臨海実験所特別研究員等
特定非営利活動法人 バイオメディカルサイエンス研究会 常任理事前川秀彰
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