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Tue
1/18
2022
食品中のカビ毒の基準値を決めるときに、調べなければならないことがいくつかあります。まず、そのカビ毒は原材料をどのくらい汚染しているのか、次に、加工することでどのくらいそのカビ毒は減るのか(減衰率)、そして、日本で暮らす私たちが口にする食品から最終的にそのカビ毒をどのくらい摂取しているのか(暴露量)ということです。これらの調査研究の多くは、国立医薬品食品衛生研究所で行われています。
カビ毒DON(デオキシニバレノール)は小麦を汚染するため、摂取量の多い加工食品はうどんとパンです。DONは水に溶けやすいので、ゆでるとうどん中のDONは30%ほどになり、あとはゆで汁に移行します。一方パンでは、ほぼ100%残ります。
かなり前の話になりますが、私が研究員としてDONの基準値策定における減衰率の調査研究に携わっていた時に起きたことをご紹介します。ある国産小麦粉を使ってパンを作りました。焼き上がりの一部を官能検査※1 として試食したのですが、DONの含有濃度を測定したところ現行の基準値以上の数値が検出され、急遽、試食者の健康被害を調査する事態となってしまいました。結果的に健康被害はなかったのですが、基準値は健康被害が起こる量の少なくとも100分の1※2 の量で設定されているということの重要性を実感した出来事でした。
※1 視覚や聴覚、嗅覚など、人間の感覚を用いて行う検査方法
※2 動物実験での無毒性量を100で割った値を、ヒトに対する耐容摂取量(安全量)として算定する。「安全係数」ともいう
元国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部 部長・一般財団法人 環境文化創造研究所 顧問小西良子
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