- 日替わりコラム
Wed
9/28
2022
野原で鳴くコオロギは、すべて雄です。遠くにいる雌を呼ぶためです。誘い鳴きを聴いて雌が近づいて来ると、セレナーデのような優しい鳴き方に変わり、雌が気に入ってくれれば交尾することができます。しかし、雄同志が出会うと激しい鳴き方に変わります。コオロギの多くは夜行性なので、夜間に出会った相手が雄なのか雌なのかを知るには、視覚は役に立ちません。では、どのようにして雌雄を区別するのでしょう。
この謎を、フタホシコオロギで研究した人たちがいます※ 。コオロギが出会うと触角で互いに触れ合うことから、雌の翅だけをピンセットでつまんで雄コオロギに近づけてみました。触角でそれに触れた雄は、セレナーデを奏でました。一方、雄の翅に触れると、それを避けたり喧嘩鳴きを始めたりしました。有機溶媒で洗った翅では、そのような行動は見られず、その溶液中には、雌雄共通の炭化水素と雄特有の炭化水素が見つかりました。そこで、雌雄共通の物質のみを紙片に浸み込ませて提示すると、それに触れた雄はなんとセレナーデを奏でました。雌だと認識したのです。しかし、雄特有の体表物質だけでは、雄だと認識することはありませんでした。
後の実験で、雄だと認識して喧嘩鳴きを始めるには、雄が放出する匂いが重要であることがわかりました。
※ Iwasaki M, Katagiri C(2008)Comp Biochem Physiol pt A 149: 306―313.
片桐千仭、金子文俊、長嶋剣、佐﨑元(2021)低温生物工学会誌 67: 23―29.
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
全部または一部を無断で複写複製することは、著作権法上での例外を除き、禁じられています
- アクセス