- 日替わりコラム
Thu
2/9
2023
1986年4月26日、現在のウクライナのチョルノービリで史上最悪の原発事故がありました。その周辺に黒いアマガエルが出現することがわかり、原因と生物学的意義に関する研究が行われました※ 。
中心地から20km以内に生息しているアマガエルには黒い個体が多く、40km離れると緑色の個体が多く見られました。放射線は遺伝子に直接影響することが知られていますが、体色変異と現在の放射線量との間には関連がみられないため、黒い体色は事故当時の放射線量の影響であると指摘されました。しかし、論文を発表した研究者たちは、放射線が黒いカエルを生み出したのではなく、当時は少なかった黒い個体が増えた結果であると考えています。黒い皮膚はメラニン色素の蓄積によるものですが、色の濃い皮膚は放射線などを遮断します。日光浴すると私たちの皮膚が黒くなるのも、害となる光線から身を守るための適応だと考えられています。つまり、黒いアマガエルは緑色のものと比べて事故直後に放射線から守られていた可能性があるのです。さらに、カエルの皮膚のメラニン合成には多くのエネルギーが必要とされないために、当時形成された黒色カエルの頻度が維持されているようです。ただ、忍者のように色を変えるアマガエルが黒と白の容器に2日間置かれても背景色に影響されなかった、という結果はやや気になるところです。
※ Burraco P. & Orizaola G.( 2022) Evol. Appl., DOI:10.1111/eva.13476
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
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