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2023

三椏(みつまた)の小毬(こまり)

 早春には、黄色の花がよく目に留まります。
 マンサク、ロウバイ、フクジュソウ、タンポポなどが、明るい季節を寿(ことほ)いでいます。実際には、訪花昆虫を誘うための共進化(きょうしんか)の結果なのでしょう。
 三椏の花は鮮烈な黄色ではありませんが、とても淡く温かみのある色調で、三つ叉に分かれた枝先に俯(うつむ)き加減に小毬のようにまとまって、ほのかに甘い芳香を漂わせて咲きます。あたかも早い春を告げるかのように一斉に咲くので「先草(さきくさ)」、また、縁起の良い吉兆の草とされて「幸草(さきくさ)」とも呼ばれていたそうです。
 「三椏」という和名は、年ごとに順次、枝が三つ叉に分かれていく形態から、直感によってつけられたように思えます。1年枝の柔らかい樹皮は、和紙や紙幣の原料として用いられてきました。現代の手漉(す)き和紙では、楮(こうぞ)に次ぐ主要な原料となっており、鳥の子和紙やふすま紙は三椏を主原料としています。徳島県では古来、山村の焼畑地で栽培され、重要な収入源である工芸作物でした。現在は、通常は廃棄される三椏の幹を使った木炭とそれを成分とした石鹸が製造されています。
 三椏の花言葉は、「肉親の絆」、「意外な思い」ですが、その心も直感によるのでしょうか。

東京学芸大学 名誉教授・植物と人々の博物館 研究員木俣美樹男

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