イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

上野動物園飼育係通信

恩賜上野動物園

なんでもかじる、南の島のおサルさん

 組木(くみき)の枝先は削られて丸くなり、壁のコンクリートにも爪で削ったような傷跡が…。猛獣かなにかの部屋でしょうか。いいえ、ここは体重3kgにも満たないサル、童謡でお馴染みの「アイアイ」の展示室です。今回は申年(さるどし)にちなみ、珍しいサルの様子をお知らせします。
 アイアイはマダガスカルだけに生息する、夜行性の、原始的なサルの仲間です。主食はラミーという木の果物の種の「中身」で、木の中の幼虫も好物です。この硬い種の殻や、木の幹に穴を開けるため、リスやネズミのように一生伸び続ける前歯(切歯(せっし))を持ちます。
 それが、驚くほど強い力を持っているのです。木の枝はもちろんのこと、壁のコンクリートや天井の石膏ボードまで、歯が届くところは金属以外なんでもかじり、削ったり穴をあけたりしてしまいます。針金が緩んで枝がぐらついていないか、天井裏の配線の近くに穴がないかと、飼育業務の合間に冷や冷やしながら部屋をチェックするのが、私たち係員の日課となっています。日々の食事の中で自然に歯が削れるよう、硬いナッツ類を与えたり、餌を竹筒に入れて穴を開けてから食べるようにしたりと工夫を凝らしていますが、物をかじる彼らなりの歯のメンテナンスは相変わらずです。動物園では、動物そのものだけでなくこうした室内の様子からも、その生態や野生での環境を垣間見ることができます。
(2016年1月号掲載)

ジャイアントパンダの省エネ生活

 上野動物園の人気ナンバーワンといえば、ジャイアントパンダです。
 ご存知のとおり、ジャイアントパンダの大好物はタケ(ササ)です。1日に10kg以上、多いときには30kgも食べます。しかし、その20~30%しか消化されず、ウンチにはタケの葉や堅い部分が、ほぼそのままの色と形で出てきます。ジャイアントパンダは、約300万年前からタケを食べて生活をしていたようです。ではなぜ、わずかしか消化できないタケを主食として選んだのでしょうか。タケは冬でも枯れず、彼らが住む高い山の上でも豊富に生えています。そのため、主食にして生きていけるように進化してきたという説が有力ですが、真相は謎です。
 最近の研究によると、パンダの消化器官はタケを食べることに十分に適合していないことがわかってきています。また、ほかのクマの仲間よりも脳、肝臓、腎臓は小さく、体表面の温度が犬や牛より大幅に低いことが判明しました。1日のエネルギー消費量が、同じ体格の陸上哺乳類の4割弱で、ナマケモノと同じくらいです。これは、小さな臓器とのんびりした動作で、パンダがタケを食べて生き延びることを可能にして、かなりの省エネ生活をしているということなのです。
 なお、上野動物園ではエコな取り組みのひとつとして、パンダが食べ残したタケの一部を紙にリサイクルし、封筒や名刺にして使っています。
(2016年3月号掲載)

生ける芸術、日本のニワトリ

 皆さんは、ニワトリと聞いてどのような姿を思い浮かべますか。
 おそらく、体が白く、トサカが赤いニワトリなのではないでしょうか。そのニワトリは、イタリア産の白色レグホンという品種で、卵をたくさん産むことから世界中で飼育されています。しかし、これは昔から日本で飼われていた品種ではないのです。
 昔から日本で飼われていた日本鶏(にほんけい)と呼ばれるニワトリたちには、姿の美しさや独特な鳴き声など、海外の品種には見ることのできない素晴らしい特長があります。これは、昔の日本には肉や卵を食べる習慣があまりなかったことから、食用としてではなく、姿や鳴き声を愛でるための観賞用として飼われていたためと考えられています。
 現在約45品種いる日本鶏のうち17品種が国の天然記念物に指定されているほど、その文化的価値は認識されています。反対に、最近の住宅事情や飼育者の高齢化により、日本鶏をあまり身近に見ることができなくなりました。
 上野動物園で日本鶏を見ていただいた方々に、この生ける芸術を少しでも知っていただけたらとても嬉しく思います。そしてそのことが、日本の大切な伝統文化を後世へ繋げる一歩になると考えています。
 ただのニワトリといわず、ぜひ一度、当園の日本鶏をご覧ください。
(2016年5月号掲載)

動いている姿を見てほしいゾウガメ

 ヘビやカエルなど、不気味な動物が多いと思われがちな両生爬虫類館ですが、その中で人気の高いガラパゴスゾウガメをご紹介します。
 ガラパゴスゾウガメは、南米のガラパゴス諸島のみに生息する世界最大のリクガメです。現在展示しているゾウガメの体重は、約200kgにもなります。完全な植物食で、動物園では小松菜などの葉野菜や青草を主食として与えています。ときどき大好物の果物やサボテンもあげます。カメには歯がありませんが、口が鳥のクチバシのような硬い構造になっており、餌を噛みちぎって食べます。
 毎朝、掃除と給餌(きゅうじ)のために飼育場に入ると、扉の音に反応するのか、飼育係が来たことに気づき、ゾウガメはこちらに迫ってきます。歩く速度は意外と速く、目を離すとすぐ近くに来ています。そのため、掃除中はゾウガメから目を離さず、近づいてきたら別の場所に移動し、また来たらいない場所に移動することを繰り返しながら作業します。その後、餌を与えると無我夢中で食べ始めます。そのときに思うのです。「僕に慣れているのではなく、餌が欲しかっただけなんだね…」と。
 午前中の掃除と給餌時間は、動くゾウガメを見られるチャンスです。食事後は飼育場の端っこで寝てしまいます。ぜひ、朝から動物園に来ていただき、まずは両生爬虫類館にお立ち寄りください。
(2016年7月号掲載)

園の下の力持ち

 「食べる」という行為の大切さは、人も動物も変わりません。上野動物園には、動物の餌を扱う「飼料室」と呼ばれる裏方の部署が存在します。市場から毎日届く新鮮な野菜や魚、そして大きな馬肉のかたまりなど、ご家庭の食卓に並ぶような身近なものから人が食べることのない鶏の頭まで、動物園の台所にはさまざまな種類の食材が揃います。しかし、野生とまったく同様の餌を動物たちに確保することは困難です。そのため継続的に入手可能な食材を、安定した分量で用意することを考えています。
 最近では野生動物の研究が進み、与える餌も変化しました。ゴリラの餌といえばバナナを連想する方も多いでしょうが、現在上野動物園のゴリラにバナナは与えておらず、トマトやセロリなど野菜中心の食生活に変化させています。市販のバナナは甘みが強く、本来ゴリラが野生の生息地で食べている果物とは大きく異なります。では動物園でバナナが使われていないかというとそうではなく、南国の鳥などに与えています。種類ごとに必要な栄養を見極めて、与える餌を決めるのです。
 また、有害鳥獣として駆除されたシカの肉や、生き物に配慮した田んぼで作られた米の粉も餌として使用しています。動物園の台所事情は、時代に合わせて目まぐるしく変化し続けているのです。
(2016年9月号掲載)

動物医療センター

 平成28年の4月1日より、新しい動物病院として業務を開始した「動物医療センター」をご紹介します。この施設は、旧東園飼育事務所の跡地に平成26年12月に着工、平成28年の1月28日に竣工した後、建築確認などの事務手続きと旧病院からの移転作業を終えてから、診療業務を開始しました。上野動物園の歴史をたどる4代目の病院になるようです。
 動物医療センターは、延べ床面積で旧動物病院の約1.8倍の規模となっています。旧施設は、主に診療業務および臨床検査業務を行う病院棟と検疫業務を行う検疫棟に分かれており、その間は管理用の通路で隔てられていましたが、動物医療センターでは一棟の建物になりました。
 最大の違いは、その立地場所です。旧施設は、皆さんがご覧になれない管理エリア内に建っていました。治療のために動物の安静を保つ意味や、外部からの病原体の侵入を防ぐ検疫業務、ときには病気にかかった動物を隔離収容するなどの防疫的な目的のために公開エリアから外れた場所にありました。ほかの動物園にある多くの動物病院は、まだ公開エリア外にあることが普通ですが、上野動物園では建物の防音性や気密性を上げ、排気や排水の処理をきちんと行える設備を備えることにより、皆さんに動物園の重要な仕事の一端をご覧いただくことが可能となりました。
(2016年11月号掲載)

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