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2023

人生永遠のテーマを追った作家 向田邦子(1)演出家・深町幸男との出会い

 テレビドラマ史上の傑作と謳(うた)われるNHKドラマ人間模様『冬の桃』で好評を博したNHKディレクター・深町幸男が、そのドラマの脚本を担当した早坂暁さんとあるパーティーに行った時のことです。同世代の女性が名刺を持って、覚悟を決めた形相で深町のところへやってきました。「あの、わたし、向田邦子といいます」、「どうも深町です」、「ぜひ一緒に仕事をやりましょう。よろしくお願いします」。そう言うと、そそくさと去っていきました。一瞬の出来事でした。隣にいた早坂暁さんが、すかさずフォローします。「向田さんは、TBSの久世光彦さんたちと一緒に頑張っている方です。ぜひ今度使ってあげてはどうですか」。
 向田邦子さんは当時、TBS水曜ドラマ『寺内貫太郎一家』が大ヒットし、その続編や新ドラマの執筆で多忙でしたが、NHKではまだ実績が少なかったようです。和田勉(べん)とは2作品に絡んだのですが、仕事の幅を広げたいと思い、注目の演出家・深町幸男に渾身の力で声をかけてみたのです。事前に向田さんと早坂さんの話し合いがあったように思えるのですが、ドラマ制作の世界では「価値のある行動」だったに違いありません。「情感の機微」を描くことに執着する深町と「男女の機微」をホームドラマで表現する天才・向田邦子さんは、こうして出会ったのでした。そして、ドラマ史上に残る名作『あ・うん』が生まれることになります。

写真技術研究所別所就治

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