- 日替わりコラム
Fri
3/24
2023
トキソプラズマはネコ科の動物を終宿主とする寄生原虫であり、中間宿主としてヒトを含む幅広い動物種に感染します。そのため、ヒトは猫自身や猫のトイレを触った手を介したり、感染している豚や牛、羊や山羊などの肉を生食したりすることで感染します。成人が感染した場合の多くは無症状ですが、妊娠中に初めて感染すると胎児も一緒に感染してしまい、流産や水頭症などの先天性トキソプラズマ症を起こします。
ネズミも中間宿主のひとつであることから、感染したネズミが猫に食べられることはトキソプラズマにとっては嬉しい出来事です。また、感染したネズミは猫の匂いを避けなくなることも知られています。そのため、あたかもトキソプラズマはネズミを操って、捕食されやすくコントロールしているように思われ、マスコミでは高等生物を操る寄生虫の面白い事例としてよく取り扱われています。しかし近年、トキソプラズマに感染したネズミは猫の匂いだけではなくキツネなどの捕食者の匂いや、ヒトの手なども避けなくなることがわかりました。またその程度は、ネズミの脳炎の程度と相関していました。トキソプラズマに感染したネズミは脳炎の影響で危険なものを全般的に避けることができなくなり、結果として猫にも捕まりやすくなっていると考えるほうが、トキソプラズマがネズミを操っていると考えるよりも正しいようです。
イカリ消毒株式会社 取締役・一般財団法人 環境文化創造研究所 評議員谷川力
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