イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

季節と暮らす(2)

大西美穂

立秋から処暑(しょしょ)へ

 「秋が立つ」というものの、35℃以上の猛暑日が続くと、どうも実感が湧きません。立秋は二十四節気の中で、もっとも本来の季節感との温度差を感じてしまう名称のひとつです。中国から伝来した二十四節気は、日本人にとってはいくぶん先取りした名前がつけられているので、この違和感も否めませんが、来たる本格的な秋に向けて、体調を整える時節ととらえて暮らしてみてはいかがでしょう。
 この時期には、つい冷たい物をとり過ぎていたり、1日中冷房の効いた部屋に閉じこもったりと、気づかぬうちに体を冷やしすぎていることがままあります。また、食欲が落ちて軽い食事ですませてしまうこともあるでしょう。ですが、こういった生活習慣を続けていると、涼しくなる頃には疲労感が抜けきれないまま、体調を崩すといったことにもなりがちです。
 そこであえてこの季節は、温かい飲み物や食事を意識的に摂るように心がけます。さっとシャワーを浴びるのではなく、お風呂につかってじっくりと汗をかき、体を芯から温めるのも効果的です。
 日中の暑気が身に堪(こた)えますが、空を覆っていた入道雲が薄い筋状になる頃、ふっと涼やかな風が吹くことがあります。空からやってくる秋の気配を感じる夕涼みも、この時節ならではの楽しみです。
(2013年8月号掲載)

◆ 8月の二十四節気:7日=立秋、23日=処暑

白露(はくろ)から秋分へ

 皆さんは、二十四節気をいくつご存知でしょうか。二十四節気とは、1年を24の季節に区分して表した季節の名称で、江戸時代から取り入れられています。もともとは中国伝来のものなので、日本の季節感や現代の私たちの生活感覚とは少し異なるところがありますが、今も暮らしに定着しています。
 9月7日は、二十四節気の白露にあたります。朝晩が涼しくなり、草花に宿った透明の露が白く見えることから名付けられました。朝日とともに現れ、やがては消えてしまう露のはかなさに、昔の人々は秋を感じていたのでしょう。とはいえ、まだまだ残暑も厳しく感じられるこの時期は、このあまりに「ささやかな秋」を見過ごしてしまいそうです。
 「音の歳時記」という詩のなかで、那珂太郎(なかたろう)さんは9月を「りりりりり」と表現されています。日中どんなに暑くても、夕暮れどきに聞こえてくる歯切れよい音。これこそ、私の秋です。急かされるように虫箱を掴んで家を飛び出した昔々を思い出します。小さな虫たちにとっては、朝晩のわずかな気温の変化さえ一大事なのでしょう。あたたかいうちに冬支度をしておこう…鈍感な私にそう知らせてくれているかのようです。
 季節の感じ方は人それぞれです。自分のための小さな秋を探してみると、残暑もいくらか凌ぎやすくなるのかもしれません。
(2012年9月号掲載)

◆ 9月の二十四節気:7日=白露、22日=秋分

寒露(かんろ)から霜降(そうこう)へ

 朝夕は肌寒く感じる日も多くなってきたのではないでしょうか。そろそろ羽織ものを1枚、鞄に忍び込ませたほうがよいかもしれません。草花に冷たい露が宿る寒露の季節――秋は確実に、ゆっくりと深まっています。穀物、果物、木の実にきのこ。人間にとっても、動物たちにとってもわくわくする実りの秋。なかでも私が心待ちにしているのは、新蕎麦(そば)です。秋に収穫される蕎麦は、色・味・香りの三拍子が揃い、「秋新(あきしん)」と呼ばれ、昔から庶民に親しまれています。
 今年こそは蕎麦を打ってみよう! そう決意して毎年蕎麦粉を買うのですが、いまだに実現していません。蕎麦を打ちはじめて10年がたつ友人は、納得いく蕎麦を目指して試行錯誤の毎日だそうです。それを聞くと、ついつい粉にお湯を注ぎ、蕎麦掻きにして食べてしまいます。香りよい蕎麦本来の味を楽しめますが、もうひと工夫できないものかと思っていたときに教えていただいたのが、「ガレット」でした。
 ガレットは、フランスのブルターニュ地方の貧しい農家から生まれた郷土料理です。痩せた土地でも育ちやすく滋養に満ちた蕎麦は、国を問わず庶民の味方なのですね。作り方はとても簡単です。蕎麦粉、卵、水、バター、塩を混ぜ合わせ、鉄板でクレープのように焼き上げるだけ。カリッとした焦げ目とふんわりしたやさしい食感は、やみつきになります。
(2012年10月号掲載)

◆ 10月の二十四節気:8日=寒露、23日=霜降

立冬から小雪(しょうせつ)へ

 地始凍(ちはじめてこおる)季節、立冬。暦のうえでは、文字どおり冬の到来を予感させますが、突然「大地が凍り始める」寒さがやってくるわけではありませんので、拍子抜けしてしまうかもしれません。むしろ深みゆく秋をじっくり味わえる季節ではないでしょうか。
 木枯らし吹く寒い日の翌日には、晩夏のようにぽかぽかと暖かい陽気に包まれ、鼻歌まじりに散歩にでかけたくなってしまいます。季節風とともに北からやってきた紅葉前線は、街も野山も、色とりどりに衣替えさせていることでしょう。
 郊外に住む祖母の家のまわりは、レッドカーペットならぬイエローカーペットに様変わりします。「銀杏を拾ってきて」と頼まれ、どこまでも続くイチョウ並木を歩いたのはずいぶんと昔のことです。鼻腔をつらぬく強烈な臭いに眉間をしかめながら、なかば息を止めて銀杏をつまみ取るのです。果肉をきれいに処理し、祖母が炒ってくれた銀杏。当時はその苦みが好きになれなかったけれど、いまは茶碗蒸しにひとつだけ入っている銀杏を見つけると、なんだか嬉しくて、最後のひと口にとっておくのです。
 小春日和にほっと一息。ですが日足(ひあし)はますます短くなり、朝晩の冷え込みは厳しく感じられることでしょう。しっかりと体調を整えて、本格的な冬に備えましょう。
(2012年11月号掲載)

◆ 11月の二十四節気:7日=立冬、22日=小雪

大雪(たいせつ)から冬至へ

 1年で昼がいちばん短く夜が長い日、冬至。この日から春に向けて、だんだんと日足は長くなりますが、体感的にはこれからが冬本番といったところでしょう。
 知人宅の庭に植えられた柚(ゆず)の木が、黄金色の実を揺らしているのを目にすると、「今年も1年が早かった」としみじみ感じます。丸々と太った実ほど手の届きにくい高い枝になるもので、懸命に腕を伸ばして枝をたぐり寄せるのですが、鋭い棘(とげ)に阻まれて、これがなかなか難しい。それでもこの季節の楽しみをひとつでも多く収穫しようと、無我夢中です。
 柚は捨てるところがない、万能果実。薄くむいた皮は、鍋や味噌汁、焼き物、煮物に添えれば、なんとも清々しい香りが食卓に漂い、いつもの家庭料理がぐっと華やぎます。絞りたての果汁は、ドレッシングや酢の物に。疲れたお父さんには焼酎で割ってあげてください。食事のあとは、網の袋に入れてお風呂に浮かべましょう。
 菖蒲湯や蓬(よもぎ)湯など、古来から日本には季節の植物を活かしたお風呂がありますが、柚湯はまさに代表ともいうべき入浴法。冬至に柚湯に入れば、冬のあいだ風邪知らずといわれています。身体を芯から温めてくれてお肌がつるつるしますし、何よりそのアロマ効果は絶大です。身も心もリフレッシュして、新しい年を迎えましょう。
(2012年12月号掲載)

◆ 12月の二十四節気:7日=大雪、21日=冬至

小寒(しょうかん)から大寒(だいかん)へ

 二十四節気では小寒(寒の入り)、大寒という文字のとおり、「寒」の時節を迎えます。この1か月間は1年でもっとも寒さが厳しくなりますが、年末、お正月などイベントが目白押し。思わず、心はずんでしまいます。
 太陽暦では、何もかもが凍てつくような寒さばかりのように感じますが、大寒の初候を見ると「款冬華(ふきのはなさく)」とあります。蕗の薹(ふきのとう)の蕾(つぼみ)が地上に顔を出す頃という意味です。蕗の薹は春の季語。どうやら地中では、春を迎える準備が着々と進んでいるようです。
 この時期、わが家では甘辛く煮た蕗の薹が食卓にあがります。初めて食べたときは、あまりに苦くて箸がすすみませんでした。それでも母が「春の皿には苦味を盛る」ものだと言うのです。いったいなぜでしょう。
 実はこの苦味に秘密がありました。苦味成分には、新陳代謝を活発にさせる効能があるそうです。冬の間にため込んだ脂肪や老廃物を排出させ、私たちの体を冬から春へと導いてくれるのです。冬眠から目覚めた熊が、はじめて口にするのは蕗の薹だといわれているそうですが、なんて理にかなった食事なのでしょう。
 さぁ、私たちも、眠っていた体を起こして、爽快に新しい年を始めましょう。
(2013年1月号掲載)

◆ 1月の二十四節気:6日=小寒、21日=大寒

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