- 日替わりコラム
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9/18
2023
コクヌストモドキは小麦や米などの砕粉を好む貯穀害虫で、成虫の体長は4~5mmほどです。成虫を刺激すると、脚を引っ込め、死んだふりをします。これは「擬死行動」と呼ばれ、クモやサシガメのような捕食性天敵から身を守る機能のようです。捕食者に遭遇しても擬死しないものや、擬死してもすぐに起き上がってしまう個体は、捕食されやすいのかもしれません。一方、擬死行動が長すぎると、自分の食事や配偶行動に充てる時間が減ってしまいます。したがって、擬死するかどうかに加え、生存上、擬死時間の長さも重要になってきます。
擬死する時間が長い個体、あるいは短い個体を選抜すると、それらの特徴をもった系統ができることが知られています。擬死時間の短い系統は、長い系統の個体と比べて動きが活発で、長く死に真似をしているのが苦手のようです。
最近、日本の南北38か所の精米所でコクヌストモドキを採集し、実験室で擬死行動を調べたグループがあります※ 。同じ温度条件で調べたのですが、北の集団ほど擬死する個体が多く、また長く擬死するという結果が得られました。つまり、遺伝的な違いが反映されているようです。この南北に沿った変異は、天敵の種類や数などの違いによって生じた可能性が指摘されており、大変興味深い現象です。
※ Matsumura, K. and Miyatake, T.(2023)Biol. Lett. 19: 20230028.https://doi.org/10.1098/rsbl.2023.0028
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
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