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2023

人生永遠のテーマを追った作家 向田邦子(6)大いなる矛盾

 向田邦子さんの作品にみられる大きな特徴に、「父親の描き方」があります。これは、自身が父親のことが大好きで、父親も向田さんの最大の理解者だったことに起因しています。
 昭和の時代の父親は、やることなすことに「大いなる矛盾」が存在していました。長所と短所を見分けることが難しく、あるときは強気になり、またあるときは弱気になったりします。その過程を表現するときの向田さんの表現力は、目を見張るものがあったといえます。父親に対する深い理解と持ち前の記憶力を活かして、向田さんは、見事かつ容赦のない「昭和の家族像」を描き出していきました。この特徴は、その後の『だいこんの花』や『寺内貫太郎一家』、『父の詫び状』などのヒット作に活かされていきます。
 向田さんのテーマのひとつである「家族」。かつては支え合い、相互理解の中で成立していた「家族」は、核家族化とプライバシーの尊重により大きく変化しています。特に若者たちはプライバシーの尊重が第一となり、それぞれの部屋に鍵をかけ始めたことで、いつの間にか「家族」は単なる「個」の集合体になったような気がします。そうした背景の中で、昭和の家族像や人間のつながりについて、向田さんの作品を通じて再考していきたいと思います。

写真技術研究所別所就治

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