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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食物アレルギーと、どうつきあっていくか

NPO法人 アトピッ子地球の子ネットワーク 事務局長 赤城智美

食物アレルギーは「病気」?

 30年ほど前には、「うちの子は食物アレルギーなので、卵を食べることができません」と話すと、保育園や学校では「神経質なお母さん」と批判され、真剣に取り合ってもらえないことが少なくありませんでした。
 アレルギーは口や鼻、粘膜、皮膚などを通して、外界から体の中に自分とは異なるタンパク質が入ってきたときに起こる反応のことです。免疫という、いわば体に備わっているパトロール隊が、「これは自分とは異なるタンパク質だ」と確認して、外界からやってきたタンパク質=異物をいち早く外に出そうとするのです。花粉のタンパク質に対してアレルギー反応を起こすと、吸い込んだものや粘膜についてしまったタンパク質をいち早く外に出すため、くしゃみや鼻水、咳や涙が一斉に噴き出す花粉症はよく知られています。
 食物アレルギーとは、食物のタンパク質が原因となって起こるアレルギー反応のことをいいます。食べたり飲んだりして症状が起こるのはもちろんのこと、触れたり吸い込んだりしても症状が起こる場合もあります。食物アレルギーは免疫が反応して症状が起こるのですから、間違いなく「病気」なのです。病気であるにもかかわらず、「神経質」と言われて、患者やその家族はずいぶん困難な状況におかれていた時代があったのです。
(2017年7月号掲載)

食物アレルギーは「子どもの病気」?

 食物のタンパク質は、加熱したりよく噛んで唾液が十分に出たり、胃や腸を通過する過程で消化液にさらされることによって、分解、吸収されます。食物アレルギーは体の免疫システムがセンサーの働きをして、未消化の分子が大きいままのタンパク質をキャッチして「異物」と認識します。タンパク質がペプチドやアミノ酸に分解されてしまえば、分子は小さくなりセンサーには引っかからないので、アレルギー反応はほとんど起こりません。
 この仕組みを前提にすると、「消化が未発達な乳幼児はアレルギー反応が起こりやすく、消化ができるようになればアレルギー反応は起きなくなるのではないか」と考えたくなります。厚生労働省の科学研究費助成事業のモニタリング調査や文部科学省などの統計調査を見ると、たしかに乳幼児にアレルギーは多く、年齢が上がるにつれて患者数は少なくなるようです。けれど20歳以降の年齢で、また少し増える傾向も見られます。消化以外にもホルモンバランスの影響や自律神経のバランスなど、さまざまな要因が影響していると考えられています。
 子どもに多い病気ではありますが、大人の患者さんもいます。主に子どもの頃に発症しますが、大人になって突然発症する人もいます。成長とともに症状が起こらなくなる人も、そうならない人もいるのです。
(2017年8月号掲載)

母乳と離乳

 「アレルギー発症の予防」を意図した妊娠中のアレルゲン除去は必要ないと、疫学的にも医学的にも確認されています。授乳中の母親についても、医師から特別に指示がある場合を除いては、アレルゲン除去は行うべきではないといわれています。
 しかし、残念ながら医療の普及には時間がかかるためか、妊娠中や授乳期間中にアレルゲン除去に取り組んでいる人に出会うことがあり、もっと医師と話し合ってほしいと感じます。赤ちゃんは栄養だけでなく、IgA免疫※1 も母乳からもらえるので、経母乳感作※2 を恐れて授乳をためらうよりも、免疫バランスの良い子に育つことを願って、安心して母乳をあげてほしいと思います。
 上の子にアレルギーがある場合や、父母のどちらかにアレルギー症状があると、赤ちゃんのアレルギーが気になる人も多いでしょう。アレルギー発症予防や早期に発症に気づくという意味では野菜ペーストを1種類ずつ食べさせてみて、様子を見ながらたくさんの種類に広げたり、混ぜ合わせたりする方法をお勧めします。最初の頃は1種類ずつにしていると、仮に何か反応を起こしたとしても原因がわかりやすいからです。また、子育て日記の代わりに、食べたものや出来事などを一口メモで書き留めておくと便利です。
(2017年9月号掲載)

※1 免疫グロブリンA。鼻腔や肺の気管支、腸の内壁、生殖器などの粘膜に存在し
侵入してきた病原菌やウイルスなどの抗原を水際で防御する働きをする
※2 母乳をきっかけとしてアレルギー反応を起こす体質になってしまうこと

「経口免疫寛容」を促す治療方法

 食物アレルギーは、子どもの成長とともに、保育園や学校での給食、お泊り保育や修学旅行での食事、外食、友達の家に行く、昼食をまたいで遠出するなど、生活範囲の広がりに伴う出来事が課題になります。これは治療の過程や進捗の状況とも、大きく関わってきます。
 医師の指導のもとでアレルゲン食物をごく微量ずつ食べて「食物負荷」を行いながら、アレルギー反応を起こす感受性を徐々に緩和していく「経口免疫寛容」を促す治療方法があります。必ずしも全量を食べることができるようにはならなくても、仮に10mg食べることができるようになれば、数ppmのレベルで激しい症状を起こしてしまう状況ではなくなります。このため、洗浄した後の調理器具やお皿に微量のタンパク質が残っていたとしても、調理材料にアレルゲン食物が入っていなければ症状を起こさないようになります。治療が進めば、子ども自身が「表示を見る、レストランのスタッフに質問する、Webサイトで確認する」といった社会性を身につけることで、保護者の安全管理を求めなくても外出ができるようになるのです。
 しかし残念ながら、アレルゲン食物の種類が多い、過敏な状況が改善しないなど、特に困難な課題がある場合は前述のようには解決できませんので、それについては次回ご紹介したいと思います。
(2017年10月号掲載)

「経口免疫寛容」が、うまくいかなくても

 前回ご紹介した「経口免疫寛容」を促す治療が仮にうまくいかなかったとしても、子どもの成長を待って再チャレンジしてうまくいくこともあります。体の感受性、治療時の体調、ホルモンなどさまざまな要素があるので諦めないことが肝要です。一方で子どもたちは日々成長し、社会とのかかわりなしに過ごすことは不可能です。外食、宿泊などは保護者だけの課題と考えず、子ども自身もかかわりながら知識や能力を身につけるべき事柄ではないかと思います。容器包装された食品の表示は既に義務化されていますので、その見方を身につければ市販の多くの食品は選択できるようになります。まずはそこから練習し、「自分で選んで購入する」体験を積み、買った物の安全確認を親子でするとよいと思います。
 表示の見方は、外食時に役立つこともあります。大きなホテルの中には「食物アレルギーの人はスタッフに声をかけてください」といったメッセージが店内にあり、声をかけると分厚いファイルとともにメニューの順番やブッフェ料理の並び順を示されることがあります。ファイルの中身は、それぞれのメニューで使われている加工品の原材料表です。子どもには、「自分で必ず確かめようね」と言いましょう。一見不親切なようですが、レストランスタッフの伝言ミスや判断ミスを排除できるので、これは安心できるひとつの方法だと思います。
(2017年11月号掲載)

大人の食物アレルギー

 30代、40代で突然、特定の食物を食べることができなくなったという相談が増えています。桃を食べたら蕁麻疹(じんましん)が出た、リンゴを食べると呼吸が苦しくなる、蕎麦を食べて全身が痒くなり、もともと少しだけ症状があったアトピー性皮膚炎がものすごく悪化して治らなくなってしまった、といったように状況は人によりさまざまです。そのような症状が出る前の様子をお聞きすると、「花粉症があって耳鼻科を受診している」、「初めて強く症状が出たときは救急外来に行ったがその後はどこも受診していない」と話す人がとても多いことに驚かされます。
 白樺の花粉症の人がリンゴを食べて蕁麻疹を起こしたり、サクランボを食べて重篤なアナフィラキシーを起こしたという例もあります。これは交差抗原性といって、片方にアレルギー反応を起こすともう片方にも反応するようになるものです。花粉症と果物の関係はよく知られており、症状によってはアナフィラキシー発症時の補助治療薬であるエピペンの処方が必要な場合もあります。
 花粉症治療のかかりつけ医がいる場合は、その医師に食物でもアレルギーを起こすようになったことを伝え、食物アレルギーについての治療や対処についても話し合っておくべきです。大人の食物アレルギーは治療が後回しにされがちだと、相談を受けるたびに感じます。
(2018年1月号掲載)

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