イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

ビジネスに役立つ文章講座(1)

オフィス環監未来塾 代表 中臣昌広
▼オフィス環監未来塾▼
https://kankan-mirai.com/

ビジネスに役立つ文章講座

 今年から、「文章を書くこと」をテーマに、さまざまなビジネスシーンを想定しながら、その秘訣をご紹介したいと思います。年齢や立場を問わず、どなたがお読みになっても役立つ基礎ですので、ご活用ください。
 私はこれまで保健所に勤務し、報告書、起案文書、通知文、論文などを書いてきました。また、学会の発表抄録や被災地を訪れた報告なども書いています。どんな文章を書くときにも私が心がけているのは、「上手な文章」ではなく「正確な文章」です。以前は、上手な文章を書きたいと思ったこともあり、形容詞を工夫したり気取った文章にしようとしたりして肩に余分な力が入っていました。そんな私が、上手な文章は必要ないと感じたのは、野口英世の母・シカの手紙を読んだときでした。
「はやくきてくたされ はやくきてくたされ いしよのたのみてありまする……(早く帰って来てください。早く帰ってきてください。一生のお願いです)」。長く会っていない息子の英世に、一目会いたい気持ちをこめた文章です。短文の中に正確で真実の心があり、それを伝えています。
 文章を書くときには、難解な表現はなるべく控えること、難しい漢字を使わずに、平易な表現を心がけることが大切です。読み手を中学生と仮定して文言や表現などを考慮し、漢字とひらがなのバランスを考えることも心がける点です。
(2022年1月号掲載)

通知文に学ぶ「起承転結」

 文章を書くにあたって「起承転結」は大事なテクニックのひとつであり、身近なビジネス文書の中で、起承転結が凝縮されたものが通知文だと思います。
 通知文は、外部に向けて講習会や研修会、会議のお知らせなど、さまざまな場面で使われます。私は役所に勤務していたとき、先輩から通知文の書き方を教えてもらいました。先輩は、こう話しました。「通知文は、『候』、『平素』、『さて』、『つきましては』の四段活用だよ」。
 「候」は、時候のあいさつです。2月ならば、「立春の候」、「向春の候」などがあり、「立春の候、益々ご清栄のこととお喜び申し上げます」のように文章を始めます。「平素」は、日頃の感謝を述べるところであり、「平素から、○○に御理解、御協力をいただき、感謝いたします」のように続けます。「さて」では、それまでの文章とはガラリと変わり、用件(本題)に入ります。「さて、例年のとおり今年度も○○講習会を開催する運びとなりました」のようになります。そして最後の「つきましては」のところで、結論をまとめます。「つきましては、お忙しいところ恐縮ですが、御出席をお願いできれば幸いです」。
 つまり、「候」、「平素」、「さて」、「つきましては」が、起承転結になっているのです。シンプルですので、皆さんも参考になさってください。
(2022年2月号掲載)

起案文書に欠かせない「5W1H」

 仕事で何かの事業を実施する前に書くのが、組織の意思決定のために必要な起案文書(原議)です。起案文書には、文章を書くために重要なことが凝縮されています。疑問詞の5W1Hの「いつ」、「どこで」、「誰が」、「何を」、「なぜ」、「どのように」は起案文書に欠かせません。今回は、私の経験をもとに、起案文書をつくるときの注意点をお伝えしたいと思います。ポイントを押さえておけば、新しい起案文書を作成する際に参考例文を見たり、ほかの起案文書を真似したりする必要がなくなるでしょう。
 起案文書の最初に書くのは、目的です。なぜこの事業をするのか、理由は何か、その背景には何があるのか、だからこの事業を実施したいという流れで説明することが大切です。AだからBに、BだからCに、最後に目指すのはこれだ、という具合です。なるほどそうかと思わせる内容になっていないと、読み進めてもらえないと思いましょう。
 あなたの目的を納得してもらえるようであれば、次に、いつ、どこで、誰を対象に、何をどのように実施するのかを書いていきます。こうした5W1Hを頭に描いて、流れに沿って考えていくと、起案文書をつくることがスムーズになっていきます。そして、起案文書の最後に、資料とその一覧を添付すれば完成です。
(2022年3月号掲載)

相手の自発的な意思を引き出す

 ある自治体の担当者からメールで、「公衆浴場などのレジオネラ症対策講習会」の講師依頼をいただきました。その返信で私は、講習会とともに保健所の環境衛生監視員に向けた現場研修会を提案しました。
 「今回、せっかくの機会ですから、現場研修会を開いてはいかがでしょうか。公衆浴場の浴室、機械室、源泉水槽などを見学させていただき、環境衛生監視員のみなさんにレジオネラ症対策を考えていただく研修会です。先日、ほかの自治体で、入浴施設での現場研修会を実施しました」。このメールを送信した後、私は次のような文章にすればよかったかなと思いました。「現場研修会をご存知ですか。過去の実施例は、こちらをご覧ください。ご関心、ご興味をお持ちになりましたら、お知らせください」。
 みなさんは、このふたつの文章を比較して、どのような印象を受けましたか。ひとつ目の文章には「有益な研修会だから、提案通りやったほうがいいですよ」という気持ちが表れているように感じませんか。けれど、相手側に「やらされている」という気持ちがあると成果は上がりません。
 何かを提案する場合には、相手に「やってみたい」という自発的な意思を持ってもらうことが大切です。ふたつ目の文章のように、結果を急がず、相手に考えてもらうような問いかけにするほうがベターだと思います。
(2022年4月号掲載)

「書き直し」のススメ

 私は原稿を書くとき、必ず二度、三度と書き直しをします。新聞記者で作家の近藤康太郎氏は、後輩に取材記事を5~6回書き直しさせるといいます。彼は、何回も書き直しをしていると「女神がおりてくる」と表現しています。「おまえが書きたいのは、これだろ」と教えてくれる、文章が「気づけよ」と言ってくるというのです。
 私がこれと似た経験をしたのは、あるインタビュー原稿をまとめているときでした。インタビューの相手は、ある雑誌に「バーテンダーの人生」を連載しているプロのライターの方でした。最初は彼が語ってくれたことを単純に書き並べただけでしたが、それをもとに二度、三度と書き直しをしていくと、あるときから自分に「いったい、この文章で何を伝えたいのか、何を言いたいのか」と問いかけられているような感覚になったのです。書いた文章を俯瞰して見続けることで、「ものづくり」というキーワードが見えてきました。バーテンダーのカクテルづくりとプロのライターの書くという行為が「ものづくり」というキーワードでつながり、それを軸にインタビュー原稿をまとめることができました。
 これは、何度も書き直しをしなければたどり着けなかったことだと思います。文章を書く際には一度で完成したと満足せずに、俯瞰したり視点を変えたりして書き直すことをお勧めします。
(2022年5月号掲載)

「書く習慣」をつける

 25年くらい前の話です。私は、書く習慣をつけるためとパソコンの表計算ソフトに慣れるために、日記を書き始めました。当時、通い始めたカルチャー教室の文章講座の先生に、「何でもよいので、毎日書く習慣をつけることが大切です。たとえば、日記にその日の天気を書くだけでもよいのです」と言われたことも影響しています。
 日記は、1年ごとにシートをつくり、表の一番上の行に項目を並べました。左から、月日、天候、寒暖の体感、私の出来事、社会の出来事としました。その後、趣味の活動記録、朝食・昼食・夕食の項目も追加しました。
 この習慣を続けるコツは、自分の心情を長くつづるのではなく、寝る前の短時間に1日を振り返って事実を淡々と書くことだと思います。1行に1日が凝縮され、1行1行が積み重なっていくと、日記は「大きな束」になります。日が経つにつれて、書く楽しさと、増えていく日記の記述の量に、思わず微笑んでしまいました。こうした楽しさを知った私は、今も欠かさずに表計算ソフトのマスを使って日記を書いています。習慣をつけることで、書くことへの抵抗は自然になくなっていったという感覚があります。書くことが苦手という方は、1行でもよいので毎日書く習慣をつけることをお勧めします。
(2022年6月号掲載)

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