イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える(2)

オフィス環監未来塾 代表 中臣昌広
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https://kankan-mirai.com/企業向けbcp研修/

水の確保

 災害時にライフラインが止まったときでも、施設の中に水が確保されていれば、さまざまな用途に活用することができます。過去に起きた大規模な地震の際には、1週間以上、時には1か月を超えて断水したことがありました。
 まず飲料水の確保です。3日分備蓄のペットボトルの水を利用します。最近は、自治体により7日分備蓄が推奨されています。
 次に、飲料水以外の水の確保です。(1)受水槽・高置水槽の水。1階や地下階に水道水を貯める受水槽、屋上に高置水槽を設置している場合、タンク内に残る水を利用できます。最近の受水槽の例では、災害時に水の供給が簡易にできるように、タンク側面に非常用給水栓があります。(2)大浴場浴槽の湯。バケツに汲んで、トイレを流す水に利用できます。洗濯にも活用可能です。(3)手押しポンプの井戸水。手押しポンプは、浅井戸といわれる約10mの深さから汲み上げられています。東日本大震災のとき、海水が井戸に入って塩分濃度が上がり、飲用不適になった例があります。(4)雨水。日頃から屋根に降った雨を貯めておける水槽があると、雨水を活用できます。市販品には、雨樋に接続して使用できるプラスチック製やステンレス製の200~300リットルの雨水タンクがあります。(5)その他。プール水、川の水、工業用水等があります。
(2024年1月号掲載)

ノロウイルス感染症

 災害の断水時には、水道水で手を洗うことができません。トイレも流せなくなり、懸念されるのはノロウイルス感染症です。東日本大震災では福島県の大規模避難所で嘔吐・下痢症の集団発生がありました。発災約1か月後に発症者のピークを迎え、約2500人の避難者のうち212人が、ノロウイルスが原因と考えられる嘔吐・下痢症になったのです。初めはどこからか避難所に持ちこまれ、人から人へ感染が広がったと推定されました。主に排泄物がなんらかの経路で手指に付着し、食品を介して口に入ったためと考えられます。感染拡大の原因は、流行初期に各階が過密状態で、汚物や汚染物の処理が不適切だったこと、手指衛生が十分に守られていなかったこと、当初のトイレ清掃が不十分だったことなどが挙げられています。
 避難所・避難生活でのノロウイルス感染症の予防方法は次のとおりです。(1)手洗い・手指消毒の徹底:断水時は、手指消毒剤の使用やウェットティッシュによる拭き取りが有効です。(2)手洗い方法の掲示:ポスターは手洗いを意識させる効果があります。(3)トイレの定期的な清掃:午前2回、午後2回、夕方1回の1日5回が目安です。(4)保健係の配置:グループごとに健康状態を把握する保健係を置き、早期の発見につなげます。
(2024年3月号掲載)

食中毒予防

 災害時、指定避難所の小学校や中学校には1か所あたり500人分以上の弁当が用意されることがあります。防災講習会で保健所・食品衛生監視員が繰り返した言葉があります。「提供される食品はすぐに食べてください。残したものを後で食べてはだめです。もったいないと思わず、廃棄してください」。食中毒を出さないためのもっとも大切な注意点です。避難所では、専用の食事スペースをつくることが食中毒予防のポイントになります。避難者の方が集まって食事をするので、避難所運営者の目が届きやすく、食べ残しを回収することが可能になるのです。
 避難所での主な食中毒予防の具体例をみていきましょう。
 (1)食品などの保管場所:2018年の西日本豪雨被災地の避難所では、午後3時頃に夕食用の弁当が運ばれていました。担当者は、弁当が並ぶケースを廊下の隅に積んでいました。「直射日光を避け、常温で保存してください」、「要冷蔵(10℃以下)」、「10℃以下で保存すること」など食品の表示のとおり、適切な場所へ振り分けます。
 (2)消費期限・賞味期限:生鮮食品は消費期限を確認し、期限が過ぎたものを使用しないようにしましょう。
 (3)搬入後時間:市販品外で、避難所以外で調理された食品は、10℃以下もしくは60℃以上で保管し、2時間を経過したものは廃棄するのが望ましいでしょう。
(2024年5月号掲載)

石油ストーブの備蓄

 真冬に発生した令和6年能登半島地震の被災地では、避難所の暖房として石油ストーブが使われました。ライフラインが止まっても使用できる石油ストーブは、局所的に暖をとることができます。石油ストーブを備蓄品にする際のメリット・デメリットを考えてみます。
 メリット:(1)暖がとれる。輻射熱(ふくしゃねつ)を利用して暖まる「反射式石油ストーブ」は、前面で暖まることができます。(2)電気が不要。灯油があれば、停電時でも使用できるのが最大の利点です。(3)湯を沸かせる。上部が熱せられるので、やかんで湯を沸かすことができます。調理も可能です。ただし、余震で揺れが続く時期は控えたほうが良いでしょう。
 デメリット:(1)一酸化炭素の発生。装置や部品の劣化により不完全燃焼が起きると、有害な一酸化炭素が発生します。過去の被災地では、製造後20年経過した石油ファンヒーターの不完全燃焼事例がありました。(2)二酸化炭素の発生。完全燃焼すると、二酸化炭素を発生します。定期的な換気が必要です。(3)浮遊粉じんの発生。灯油の燃焼により、大きさ100分の1ミリくらいの粒子が発生することがあります。気管支ぜんそくの発作の誘因につながる可能性があるかもしれません。
 なお、石油ストーブの備蓄は、施設の大きさ、災害時の施設の使用形態などから数を考えるのが大切です。
(2024年7月号掲載)

熱中症対策

 4月半ば、能登半島地震の被災地では気温が上昇、空調設備のない避難所の体育館は、24.5℃に達しました。発災当初、低体温症対策が最重要課題といわれた避難所は、熱中症対策を考える時期になったのです。対応について、停電時と通電時に分けて考えていきましょう。
【1】停電時/(1)風通し:自然換気がうまくいくように、対面の窓と窓とを結ぶ線上に物を置かないようにしましょう。(2)熱中症対処:気化熱を利用すると涼しさを感じます。首に濡れタオルを巻くのも一例です。(3)日除けの使用:直射日光を室内に入れないよう、入り口や窓部分に、よしず・すだれなどを使いましょう。(4)電源車の確認:状況により公共施設などに電源車が配置されることがあるので、配置予定があるかを自治体へ問い合わせてみましょう。
【2】通電時/(1)クーリングスポットの設置:外出したあとや熱中症ぎみのとき体を冷やす場所となります。2018年の西日本豪雨の際に避難所となったある体育館の一角では、パイプ椅子が置かれた場所に床置型冷房機と扇風機が設置されていました。(2)扇風機・サーキュレーターの使用:空気の淀みと温度差の解消に役立ちます。(3)温度湿度計の設置と測定:温度・湿度が確認でき、冷房の適切な使用につながります。午前と午後それぞれ確認し、28℃超のときは熱中症の注意喚起をします。
(2024年9月号掲載)

能登半島地震の教訓

 令和6年元日の能登半島地震の被災地の病院や社会福祉施設、避難所では、水・食料・暖房器具など物資の供給や環境改善が遅れました。背景には、道路や鉄道など交通アクセスの寸断、ライフライン停止による情報収集の困難、住民の高齢化による自助・共助力の低下などがあります。環境改善の遅れは、居住環境や衛生環境を悪化させ、生命や健康を脅かします。真冬の発災だったことで、低体温症による健康リスクも高まりました。今後の災害時の避難生活にどう活かすかを考えます。
 (1)避難所・避難生活に選ぶ場所:冬季の避難場所として暖をとりやすい狭い空間を優先します。暖房の熱が逃げにくいよう、天井が低く、比較的面積が小さい教室・会議室などから避難スペースにしていくと良いでしょう。断熱材として、段ボールを床に敷いたり仕切りをつくったりすると熱が逃げにくくなります。感染症予防や二酸化炭素濃度を下げるための換気も大切です。
 (2)冬季の防災トイレ:室内外の温度差によるヒートショックを予防するため、夜間は室内トイレの使用が推奨されます。電気が復旧した段階では、スイッチで自動的に封がされて下に落ちるラップ式簡易トイレの導入が望ましいでしょう。
 (3)断水時の生活用水の確保:被災地で使われたのは、井戸水、雨水、川の水、湧き水などです。平時に、生活用水の確保方法を明らかにしておく必要があるでしょう。
(2024年11月号掲載)

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