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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

誌上でめぐる世界の恐竜化石(2)

独立行政法人 国立科学博物館 副館長 真鍋真

スコットランド

 翼竜は中生代、前脚に膜状の翼をもつことで、滑空することができるようになった爬虫類です。中生代に生息した爬虫類ですが、股関節が凹んでいて穴になっていないので、恐竜には分類されません。
 2022年2月、イギリス・スコットランドの約1億7000万年前(ジュラ紀中期)の地層から新種のデアルクが発見されたと報道されました。翼を広げた左右の幅が約2.5m、ジュラ紀では最大級の翼竜として注目されています。ただし、白亜紀後期には10mの種類もいましたから、翼竜としてはそれほど大きくありません。
 約1億5000万年前のジュラ紀後期に恐竜の中から鳥類が進化してきたため、それ以降の空は、翼竜の独壇場ではなくなってしまいました。翼竜は鳥類に追いやられて、外洋性の大型種しか生き残れなかったという説もあります。
 デアルクの発見は、翼竜の大型化が鳥類の出現以前に始まっていたことを示しているのかもしれませんし、鳥類の出現がもっと早かったことを教えてくれているのかもしれません。
 下記のサイト※ で論文が無料公開されていて、ビデオ解説も観られます。英語の勉強がてら、スコットランドの女性研究者の言葉に耳を傾けてみてください。
(2022年8月号掲載)

※ 論文とビデオ解説が無料公開されているサイトはこちら↓  https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(22)00135-X  画面を下にスクロールすると、動画も観られます

アルゼンチン

 2020年3月、私はアルゼンチン・パタゴニア地方南部にいました。白亜紀最末期である約8000万年~6600万年前の地層から、南アメリカの最後の恐竜たちの化石を発見するためです。
 その時に発掘された肉食恐竜が新種であることがわかり、2022年5月に論文が発表され、「マイプ・マクロソラックス」という名前がつけられました。
 マイプとはパタゴニア地方の伝説に登場する悪霊の名前で、冷たい風で人々を凍え死にさせると言い伝えられているそうです。マクロは「大きな」、ソラックスは「胴体」を意味します。断片的な化石ですが、全長は9m以上、体重5t、胴体の幅が1.2mと推定されるがっしりとした体のつくりをしており、白亜紀最末期の南半球では最大級の肉食恐竜だったと考えられます。
 同じ頃の北半球では、北アメリカの食物連鎖の頂点にはティラノサウルス、アジアではタルボサウルスがいました。どちらもティラノサウルス類の肉食恐竜です。ティラノサウルス類が進出しなかった南半球では、マイプのようなメガラプトル類という別のグループがその座を占めていたようです。マイプは最大級のメガラプトル類で、メガラプトル類の中でも最後の種だったかもしれません。
(2022年10月号掲載)

南極大陸

 前回(2022年10月号)、今から約8000万年~6600万年前の白亜紀後期に、現在のアルゼンチンに生息していた肉食恐竜「マイプ・マクロソラックス」をご紹介しました。今月は、当時の南アメリカ大陸と陸続きだった南極大陸に足を延ばしてみましょう。
 南極圏のような寒いところに、恐竜なんていたはずがないと思っている人も多いかもしれません。しかし、南極大陸が現在のような氷の世界になったのは、地球の歴史の中ではごく最近の出来事です。中生代には森林もあり、恐竜たちが闊歩(かっぽ)する場所でした。しかし今から約3500万年前頃に南アメリカ大陸と分離すると、孤立した南極大陸の周りに周南極海流ができ、その結果、南極大陸は一気に寒冷化して氷の大陸になっていったのです。南極大陸は行くのも大変ですが、地表が氷で覆われているので化石を探すのはもっと大変です。
 まだ尾の骨の一部しか発見されていませんが、南極大陸にも大型草食恐竜の竜脚類がいたことがわかっています。国立科学博物館に展示されている竜脚類アパトサウルスは、北アメリカの恐竜です。展示室では、アパトサウルスの尾の下を歩いていただくようになっています。もしどこかで竜脚類の細長い尾を見たら、南極大陸の竜脚類にも想いを馳せてください。
(2022年12月号掲載)

オーストラリア

 大きな恐竜たちがいた中生代は、南米大陸、南極大陸、そしてオーストラリアが陸続きでした。
 オーストラリアの恐竜の中で、まず私がご紹介したいのが、アウストラロヴェナトルです。クィーンズランド州で約9500万年前の白亜紀後期の地層から発見された下顎、前あし、後ろあしなどの化石に基づいて、2009年に「アウストラロ(南)のヴェナトル(狩人)」という意味で命名されました。推定全長6m、推定体重500kgの中型の肉食恐竜です。2022年10月号のマイプ・マクロソラックスと同じメガラプトル類に分類されます。ティラノサウルス類などとの最大の違いは、メガラプトル類は手の指に大きなカギ爪があることです。
 私は授業や講演会などで、マット・ホワイト氏(オーストラリア・ニューイングランド大学)のアウストラロヴェナトルの前あしに関する2015年の論文を紹介することがあります。この論文は、アウストラロヴェナトルのヒジと手首の動きを現代の鳥類と比較しています。現代の鳥類の一例としてニワトリが図示されているのですが※ 、私は皆さんに、手羽先料理を食べた後は骨を捨てずにきれいにしてこの論文の図と比べてみてくださいと話します。現代の鳥類から、恐竜の研究につながることを感じてもらえると考えるからです。
(2023年2月号掲載)

※参考画像はこちら↓(この中でA、C、G、E がニワトリ)https://journals.plos.org/plosone/article/figure?id=10.1371/journal.pone.0137709.g004

イタリア

 恐竜の体で化石になるのは、骨や歯のような硬組織が一般的です。しかし、まれにツメや皮膚、内臓のような軟組織まで化石になった「ミイラ化石」が見つかることがあります。イタリア南部で発見された、スキピオニクスという全長50cm※ 、体重200gぐらいの小型肉食恐竜がいます。約1億1000万年前の白亜紀前期のヨーロッパは、たくさんの島が浮かぶ内海のような場所でした。海辺に棲んでいたスキピオニクスの死骸が、浅い海に沈んで静かに海底に埋没しました。スキピオニクスの化石から周囲の岩石よりも高濃度のリンが検出されたことから、リンのおかげで軟組織が残ったのではないかと考えられています。指先には角質のツメ、胴体には気管、肝臓、胃、腸などが化石になっていました。胃の中にはトカゲ類の骨、食道には魚類の骨、腸の数か所からトカゲ類のウロコなども確認されました。現代のワニ類は小さな骨は消化し、消化できなかった大きな骨などを吐き出します。また現代の肉食鳥類は、未消化の骨などはペリットにして吐き出します。その両者の間にいた恐竜も同じように吐き戻しをしたと考えられますが、スキピオニクスの場合、ウロコや骨が腸に達していることから、吐き戻しをしていなかったように見えます。しかし、発見されたスキピオニクスがまだ子どもで、吐き戻しを習得していなかったのかもしれません。
(2023年6月号掲載)

※ 成体の全長は2mと推定されている

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