- 日替わりコラム
Fri
11/6
2020
カメムシやコオロギのなかには、同じ種でありながら飛ぶものと飛ばないものが混在している種があり、それを飛翔二型現象といいます。
一般に、飛ぶものは移住型で新天地を見つけて繁殖し、飛ばないものは定住型で繁殖に優れています。定住型はしばしば翅(はね)が短く、飛翔筋も退化しています。しかし、定住型でも移住型と同様、翅は長いのですが飛翔筋が退化して飛べないものもいます。翅で飛ぶ移住型が元祖で、定住型が後に進化したと考えられており、その場合、まず飛翔筋の退化が起こり、後に不要になった翅が短くなったのだと信じられていました。
ところが、インドネシアのジャワ島に棲むツチイロエンマコオロギを調べると、翅の長さに連続的な変異がみられました。飛翔筋を調べると、これもまた連続的に変異していたのです。これは定住型の進化には、翅と飛翔筋の退化が同時進行しうることを示していました。さらに、飛翔のための脂肪エネルギーを体液中に送り込む仕組みが、短い翅の個体にも維持されていることがわかり、このコオロギは翅型二型の進化の初期にあると推測されました※1 。
最近では、飛翔筋には変化がなく、翅の長さだけが短くなっている例がトノサマバッタで見つかり※2 、翅型二型の進化過程の多様性がうかがわれます。
※1 Tanaka S., Katagiri C., Arai T., Nakamura K.( 2001) Entomological Science 4(2):195―208.
※2 Tanaka S, Nishide Y( 2012) Journal of Orthoptera Research 21(2):169―174.
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
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