イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品を介して感染する恐れのあるウイルス

元東京都健康安全研究センター 微生物部 部長 矢野一好

ノロウイルス

 今回は、汚染事例が最も多いノロウイルスに関する、ちょっと変わった情報です。
 今やノロウイルスの名は広く知れ渡り、国内における食中毒原因物質のトップになっています。しかも、ウイルスに感染している調理人が調理した食品による事例が増加傾向にあります。そんな中、2016年の5月に、福井県若狭町の給食センターが提供する8校の小中学校で、患者数363名という大規模な事件が起こりました。原因は、ノロウイルスに感染していた調理人が調理した給食でした。ウイルス感染している人の手指は、排便時に糞便由来のウイルスで汚染されるのです。
 この事件に驚愕した当局は、前代未聞の対策を打ち出しました。なんと、調理従事者に対して調理中は排便しないよう「排便禁止」規定を提案したのです。さすがに、専門医や弁護士からも「過剰反応だ」、「人権無視だ」というクレームがつき、最終的には「努力目標」になりました。
 ノロウイルス対策に決め手が少ない深刻な現状を考えての苦肉の策であったとはいえ、人の生理現象まで制約することはできません。「施設の消毒」、「手洗い」、そして「加熱調理」の徹底など、大量調理に携わる方々のさらなる衛生意識の向上が望まれるところです。
(2017年2月号掲載)

サポウイルス

 ノロウイルスという名前はよく聞くけれど、サポウイルスは聞いたことがないという方は多いのではないでしょうか。このウイルスは、1977年に札幌市の児童福祉施設で発生した集団胃腸炎で初めて確認されました。発見当初は、地名にちなんでサッポロウイルスと呼ばれていましたが、2002年に「サポウイルス」と命名されました。日本で発見され、その地名に由来して命名された数少ないウイルスのひとつです。
 感染経路や症状はノロウイルスと同様で、分類上もノロウイルスの兄弟分といった存在です。日本における感染実態はノロウイルスと比べて圧倒的に少なく、感染性胃腸炎全体の8%程度だといわれています。しかしながら2012年12月には、京都府で118名の患者が出た事例もあります。また、2016年12月には、千葉県印西市の小学校で42名の患者が出ました。今後、検査体制が充実してくると、サポウイルスが原因となる食中毒や感染症事例の増加が危惧されます。現に、国産のアサリやカキからもサポウイルスが検出されています。
 家庭でできる感染予防策としては、ノロウイルスと同様、「二枚貝の場合は、貝の口が開くのを目安にした加熱調理」です。大量調理部門におきましても、ノロウイルス同様、「体調管理」、「手洗いの励行」、そして「手袋の着用」などが、サポウイルス対策になります。
(2017年4月号掲載)

アイチウイルス

 アイチウイルスは、1989年に愛知県で集団発生した生カキの喫食による胃腸炎患者の糞便から発見されたウイルスです。アイチウイルスは、前回紹介したサポウイルス同様、日本の地名に由来して命名されたウイルスのひとつです。
 このウイルスが発見された当時は、愛知県内で発生した食中毒19事例中、7事例がアイチウイルスによるものでした。このときの原因食品は生カキでしたが、今では、出荷前に殺菌海水等で浄化する方法などがとられているため、生カキに関連したアイチウイルスの事例は稀になりました。しかし今でも、アジア各国や欧州、南米でも検出されているウイルスです。また、国内では、2005年に大分県でカキの塩辛による食中毒事例が発生しているため油断はできません。
 アイチウイルスの感染経路や食品汚染の詳細については、全貌が明らかにされているわけではありませんが、感染源としては、ウイルス汚染された食品や水が指摘されています。症状や感染予防策などは、ノロウイルスと同様です。すなわち、個人でできる予防策は、「手洗い」と「加熱調理」です。二枚貝の加熱調理は、貝の蓋が開くのを目安に加熱することで、厚生労働省が示している「85℃から90℃で90秒間以上の加熱」が可能です。
(2017年6月号掲載)

A型肝炎ウイルス

 A型肝炎ウイルスは、文字通り、A型の肝炎を起こすウイルスです。このウイルスは、ウイルス汚染された飲食物などを介して感染します。
 終戦直後の日本では各地で流行があったようですが、環境衛生の向上とともに患者数は激減し、今では全国で年間100名程度の患者報告数となっています。しかし、今もってA型肝炎ウイルスが蔓延している国はたくさんあるので、油断はできません。これらの国々から輸入された食品や流行地への旅行により、感染するリスクがあります。
 2001年には、ある事件が発生しました。この事件は、浜松市に端を発した、中国産の大アサリを紹興酒で蒸した料理による集団感染でした。特筆すべきは、この大アサリが一度に4トン以上も輸入され、全国で消費されていたことです。感染症発生動向調査の結果から感染源をみますと、カキなどの海産物が最も多く(69%)、次いで、寿司、肉類となっています。また、欧米諸国では、カキなどの二枚貝のほか、レタスや青ネギなどの野菜、冷凍ラズベリーや冷凍イチゴなどの果物による集団感染事例も報告されています。
 最も有効な予防法は、十分な加熱調理です。なお、A型肝炎ウイルスの常在地域へ渡航する際は、生水や生野菜などの非加熱食品の飲食を避けることはもちろん、ワクチン接種による予防も有効です。
(2017年8月号掲載)

E型肝炎ウイルス

 E型肝炎ウイルスは、開発途上国に常在し、ウイルス汚染された飲料水や食物などを介して経口感染する急性肝炎の病原体です。特に注意が必要なのは、妊婦が感染すると劇症化しやすいということです。
 日本における感染は、2003年に兵庫県で確認されたシカ肉の喫食による事例が初めてです。その後、イノシシやブタなどの生肉による感染が確認されています。日本のブタは、育成中に高率に感染し、一部の個体では食肉になる6か月齢になってもウイルスが残存しているとの調査結果があります。また、有害鳥獣駆除によって捕獲されたシカの肉の一部は、食肉として流通しています。
 感染予防のポイントは、十分な加熱調理です。生肉にウイルスが残っていたとしても、加熱によってウイルスの感染性は失われます。なお、調理の際に注意すべきは、生肉の取り扱いです。取り扱う箸や皿を区別することはもちろん、冷凍肉を解凍する際には、生肉から出る血液を含んだ赤い液体にも注意しましょう。もちろん、ハムやソーセージなどは、製造過程で十分に加熱されているので感染の危険性はありません。
 中央アジア方面などE型肝炎流行地域へ行かれる際には、飲料水や氷、生の貝類の喫食はもちろん、カットされて提供される果物や野菜類にも気をつけましょう。
(2017年10月号掲載)

エンテロウイルス

 エンテロウイルスという名称は耳慣れないと思いますが、このウイルスもノロウイルスと同様、食品や水を介して人に経口感染する恐れのある腸管系ウイルスの仲間です。エンテロウイルスに属するウイルスは、60種類以上もあります。内訳は、ポリオウイルス(3種、現在ではワクチン接種により国内流行はありません)、コクサッキーウイルス(29種)、エコーウイルス(28種)で、これ以降に発見されたウイルスは通し番号で分類されて、現在※1 はエンテロウイルス68から71まであります。
 エンテロウイルスが引き起こす病気は、感染しても何の症状も出ないものから、下痢、腹痛、夏カゼ、手足口病、ヘルパンギーナ※2 、突発性発疹、まれに心筋炎、脳炎、麻痺など死に至るものもあります。日本での感染実態をみると、乳幼児期に感染して軽い症状で経過し、終生免疫を獲得する傾向があります。お子さんがいるご家庭では、突然の発熱などで驚くことがあると思いますが、お子さんはこのときの感染で終生免疫を獲得しているかもしれません。
 エンテロウイルスも人の生活環境に深く侵入しており、経口感染や接触感染あるいは呼吸器感染もします。個人でできる感染予防法は、このシリーズで示してきた「手洗い」と「加熱調理」が原則です。
(2017年12月号掲載)

※1 執筆当時
※2 発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性の発疹が特徴。大多数は急性のエンテロウイルス属に属するウイルス性咽頭炎

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