イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食で“魚”を愉しむ(2)

古田優

鰆(さわら)の旬は、春か冬か

 鰆は瀬戸内海で船上から銛(もり)で突いて獲るほど大きな魚で、高級魚です。上品な身質(みしつ)で、柚の香りをつけた幽庵(ゆうあん)焼きがよく合います。字のごとく、関西では春が旬とされています。しかし、脂が乗って美味しいのは実は冬ともいわれています。成長した大型の鰆は、春に瀬戸内海に入ってきて群れ、産卵します。それまでは群れないので獲りにくく、市場でもあまり見かけないために、たくさん出回る春を旬と呼んでいるようです。旬は一般に一番美味しい時期と思われていますが、実は一番出回るとき、または一番食べてみたいときをいうこともあるのです。
 真鯛は桜が咲くころに「桜鯛」と呼んで旬とされていますが、実はこの時期は産卵のために浅場に大型の真鯛が寄り、また産卵後の体力回復のために餌を活発に食べるので獲りやすいという背景があります。卵に栄養をとられて産卵で体力を使った鯛より、晩秋に冬越しのための栄養をつけた大きな鯛の方が美味しいと思いますが、貴重で高価ですから誰でもは食べられません。これは鱩(はたはた)や鰊(にしん)、ホッケ、ホタルイカなども同様で、漁獲の盛期は群れをつくる産卵期です。
 けれど、がっかりすることはありません。その頃でもこれらの魚は十分においしく、また安く手に入ります。旬とは、”人が自然から喜びを得られるとき“とするのが適当ではないかと思います。
(2015年3月号掲載)

春告魚(はるつげうお)

 春は草木の芽吹きや、卒業、入社、入学の季節として日本人には感動の多い季節です。ウグイスは春告鳥(はるつげどり)と呼ばれ、美しい声で春の訪れを告げてくれます。魚は話すことはできませんが、魚にも春告魚と呼ばれるものが何種類かいます。目張(めばる)、鰊(にしん)、鰆(さわら)、玉筋魚(いかなご)です。魚の顔を見るとしゃべっているように感じるのは、魚と長くつきあってきた日本人の性質なのかもしれません。
 この春告魚は春が旬でもあり、美味しい食べ方や習慣が各地にあります。「目張と新筍(たけのこ)、新若布(わかめ)の煮付け」や「鰊とうどの煮物」などです。これらは「出会いもの」と呼ばれ、陸と海で縁が薄いはずなのに、出会うととても相性の良い組み合わせであることを指します。関西には鰆を春祝魚(はるいお)と呼ぶ地方もあり、木の芽味噌やふきを添えて祝いの多い春の宴席には欠かせません。兵庫県の瀬戸内海に面した地域では玉筋魚を各家庭で佃煮にし、春の季節食として親戚や知人に贈る習慣があります。生の玉筋魚は鮮度が落ちるのが早く、水揚げ地付近にいなければ良い佃煮ができません。また身が柔らかいため、調味料と合わせて火にかけてからはかき混ぜないので、折れ曲がった姿のまま炊き上がります。この姿が錆びた釘に似ていることから「くぎ煮」と呼ばれています。
 食物を通して皆が共感し、幸福を分かち合う習慣を広めたいものです。
(2015年4月号掲載)

魚の色と美味しさの関係

 果物は、赤くなって熟したことを教えてくれます。魚の雄も産卵期に婚姻色といって赤っぽい色になることがありますが、これは食べどきではありません。しかし同じ種類にもかかわらず、体の色が赤、黒、青などに分かれている魚がいます。北海道で青鱒(ます)とも呼ばれる樺太(からふと)鱒で、主に缶詰原料になり、白鮭、銀鮭、紅鮭よりは味が劣るといわれます。ときどきお弁当に入っている小さめの塩鮭切り身や、回転寿司で見かける少し粒の小さい鱒子(ますこ)と呼ばれるいくらはこの魚のものです。
 青魳(かます)も今が旬ですが、秋が旬の赤魳の方が美味しく、一匹の塩焼きで一升のご飯が食べられるとの意から「魳の一升飯」の諺があるほどです。魳も赤が旨いようです。海鼠(なまこ)にも青海鼠と赤海鼠がありますが、赤が美味しいとされています。たまに寿司屋で見かける太い弓矢を思わせる矢柄(やがら)という魚も青と赤がありますが、こちらも赤が旨いとされています。
 色の違いが鮮度や栄養状態を示すこともあります。鯣烏賊(するめいか)は濃い褐色のものが良く、白くなったものは鮮度が落ちています。ブラックタイガー海老は栄養状態が悪いと薄青色になるので黒いものを選びましょう。では、黒鯛と真鯛はどうでしょう。個人的には黒鯛の方が旨いと思いますが、世間では真鯛の方が高価で評価が高いようです。”見た目も味のうち“なのでしょう。
(2015年6月号掲載)

手軽に釣りが楽しめる季節です

 昨年生まれた魚が、釣ってみたくなる大きさに育っています。川では竿に結んだ幹糸(みきいと)に、羽毛(うもう)を釣針に巻いて羽虫に似せた「毛針」をつけた糸をいくつも枝のように結んで流すと、オイカワやウグイの仔(こ)が果敢に飛びついてきます。唐揚げでいただくとお酒が止まりません。海の湾内には小鰯(いわし)、小鰺(あじ)、小鯖(さば)が群れ、先の毛ばりと同じような仕掛けで、代わりにバケと呼ばれる魚の皮を付けた針を、錘(おもり)で沈めて振り動かすと小エビと思って食いついてきます。しかしこれらはさほど旨くなく、特に小鯖は独特の臭みがあるので南蛮漬けにします。私は開きにして片栗粉をまぶし、油を浅く張ったフライパンで両面がカリカリになるまで焼いて捨てる油をなくし、後片付けを楽にしています。
 底が砂地の堤防では、天ぷら種(だね)にもってこいの魚が釣れます。代表は白鱚(しろぎす)で天ぷら種の女王とも呼ばれていますが、味が最高なのはギンポといわれています。外見はウツボに似た20cm程の魚で食欲の湧かない姿をしています。堤防の外側に波消しのために置かれているコンクリートブロックの間などにいて、たまに釣れます。また、味がギンポに迫る天ぷら種に鼠鯒(ねずみごち)があります。20cm前後の角(つの)のある魚で釣り上げると多量のぬめりを出し、ぬめり鯒とも呼ばれています。上品な天ぷらに、外見が悪い魚が合うところが面白いものです。
(2015年7月号掲載)

魚の鮮度の保ち方

 まだまだ暑さが厳しいため、生ものは敬遠されがちです。魚は表面の細菌汚染、内臓や鰓(えら)の細菌増殖、低温でも進みやすい自己消化※ で、傷みやすい食材の代表になっています。漁船では漁獲後すぐに、魚をシャーベット状の氷を混ぜた海水に漬けて急速に冷却する工夫をしているところもあり、また魚屋では砕氷(さいひょう)を入れた水に塩を溶かし、塩のマイナスの融解熱を利用してマイナス温度の氷水を作り、魚を漬けて急速に冷却したりもしています。こうした努力と進歩した低温流通網により、私たちは真夏でも鮮度が保たれている魚を安定して食せるようになりました。
 ただし、買った後は自分で鮮度を保たなければなりません。冒頭に挙げた傷みやすさの原因を防ぐには均一に低温を保つことと、汚染源の除去が必要です。今は氷を自由に取ってよい販売店が増えていますので、購入したら氷の小袋を2つ作り魚のパックの上下を挟んで袋に入れ、なるべく寄り道しないで帰りましょう。もちろん、持ち帰ったら直ちに冷蔵庫のチルド室へ。もし翌日以降に食べるなら、水道水で表面と口の中を洗い流した後、頭を落とすと切り口から細菌が入るので、あごの下の鰓の付け根を切り、そのまま肛門まで切り開いて、鰓、内臓、背骨内側についている血合いを取り除いてよく洗い、キッチンペーパーで水気を取ってから乾燥しないようラップを掛けてチルド室に入れましょう。
(2015年9月号掲載)

※ 魚自身の酵素によって、タンパク質などの物質が分解していくこと

「未利用魚」の利用

 テレビなどで大漁の映像が流れるのを見慣れていると、魚は海の中のどこにでもいて、網を入れれば獲れると思っている方も多いでしょう。
 しかし実際には魚がほとんどいない海の方が多く、やっと見つけて獲っても欲しい魚以外の魚も混ざって獲れます。また小売業者は鯵(あじ)・鯖(さば)・鰯(いわし)のように売りやすく馴染みのある魚を求めるため、食べ慣れない魚や安定して獲れない魚は売りにくく、獲れた端から海に捨てられています。一方、消費者にアンケートを取ってみると、珍しい魚を食べてみたいという人は多く、定置網(ていちあみ)から直送したいろいろな魚を調理する居酒屋や漁港直営食堂がブームになってきています。
 そんな中、伊豆には定置網で獲れた売り物にならない魚をレストランに卸している魚屋があります。店主は脱サラしたまだ40歳前後の方で、あらゆる未利用魚を試食しながら調理法を研究し、旨い未利用魚を世に広めようとしています。代表的な食材にはホシエイの肝がありますが、定置網の水揚げに同行し、魚の旨さを保つ処理をして価値を高めています。ホシエイだけではなく、魚それぞれが一番美味しい状態で食べられる工夫をすることで、馴染みのない魚でも食卓に並ぶよう尽力しているのです。世界的な食糧難に対応するためにも、未利用魚をもっと利用していきたいものです。
(2015年10月号掲載)

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