イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

沖縄のいきもの事情(4)

特定非営利活動法人バイオメディカルサイエンス研究会 常任理事 前川秀彰

沖縄の虫事情~外来種との攻防

 沖縄でよく見るのが、アリグモです。アリだと思って捕まえると、脚が8本あるのでクモだとわかります。前脚の2本を触覚に見立てています。
 なぜ擬態しているのかには、諸説あるようです。コロニー(巣の単位)内で相互に認識できるアリの群れの中にいると、アリから攻撃されることになり、擬態の意味がありません。攻撃的なアリ(クロヤマアリ)に擬態することで、ほかの捕食者から狙われにくいと考えられています。
 アリは、同じ巣に住む個体を同巣として認識できます。体表脂質の違いにより巣仲間かどうかを認識しており、組成が違う相手は敵と見なすようです。日本のアリのコロニーは1匹の女王アリから成り立っており、集団としては小さなものとなります。これに反して、外国から移入あるいは移動してきたアリの集団は、おおむね大きな巣の単位になり(ユニコロニアリティ)、何匹もの女王アリが共存することになります。
 この大きな集団が日本の小さな集団を襲うと、結果は明らかです。アシナガキアリやツヤオオズアリが沖縄に侵入(自然侵入と考えられている)していますが、沿岸部から森林域には、未だ侵入できないでいます。理由は、森林域に棲息するダニに攻撃されるからだといわれています(琉球大学農学部 辻瑞樹(つじみずき)教授)。これを脅威と見なすかどうかは、経過観察中ということです。
(2017年9月号掲載)

沖縄の蛇事情

 タイワンスジオというきれいな大型の蛇は、無毒で観賞用に移入されたものが逃げ出して野生化しています。私も以前、勤務していた琉球大学の温室の近くで出くわしました。急に目の前に現れたので写真を撮るどころではないくらい驚いて、見とれている間に逃げられてしまいました。
 ハブにお目にかかったことはありませんが、「ハブに注意」という警告板が大学のあちこちの茂みや草むらに置かれています。目撃情報はときどきありますが、捕獲されたという話は聞いたことがありません。大学内の草むらは、いつも草を刈ってハブが隠れるところをなくしています。ただし石垣の隙間に隠れていることがあるので、座ったりするのは止めた方がいいそうです。
 沖縄は湿潤亜熱帯気候で冬が暖かいため、ハブは冬眠しません。古代から海中に没した島にはハブが棲息していないといわれていますが、それだけでは説明がつかない島もあります。最近でも、ハブに咬まれた被害はありますが、抗毒素血清の治療が有効なので、死者は出ていません。沖縄本島には、在来ハブと移入されたサキシマハブやタイワンハブとの雑種がいます。これらの毒の成分が似ているため、ハブの抗毒素血清がほかの蛇の毒にも効果があることが報告されています。もちろん、咬まれないに越したことはありません。
(2017年10月号掲載)

マングースの話

 ハブとマングースの戦いをアトラクションとして見せる場所が、以前は沖縄のあちこちにあったそうです。動物愛護の観点から、よろしくないということで自粛したのか、今ではほとんど見なくなりました。
 自然界では、マングースが生死をかけて毒蛇と戦うとは考えにくいです。そのようなリスクの高いことをするよりも、安易に狩ることができる動物を選ぶのが普通でしょう。毒蛇のハブの駆除のために東京帝国大学の有名な先生がマングースを放したともいわれていますが、これはネズミによる感染症の蔓延を防止するためだったというのが正解のようです。しかし、更に捕獲しやすい、ケナガネズミやヤンバルクイナを狙うことは予測されなかったのでしょう。今ではジャワマングースは、北へ棲息範囲を広げ、沖縄固有の希少な生物種を絶滅の危機に曝(さら)しています。
 また、イタチは沖縄本島には入っていないはずですが、末吉(すえよし)公園で私が見たものは(確信はありませんが)イタチに見えました。フェレットの可能性もあるかもしれません※ 。那覇市内に、あれほど大きな公園があるのはすごいことです。公園内を流れる川の水はあまりきれいには見えませんが、ヨシノボリも棲息しています。植物や昆虫も含めて保持されていることは、大きな財産です。街の中で経験できる貴重な野外観察の場となるでしょう。
(2017年11月号掲載)

※ 専門家によると、沖縄本島にイタチは入っていない

沖縄の虫事情~キノコシロアリ

 農業を行うシロアリがいます。畑を耕して食物を得るように、キノコの菌糸を発芽させてその塊を収穫します。八重山(やえやま)諸島から台湾にかけて分布しているキノコシロアリです。
 オオシロアリタケは、シロアリが棲息しているときは発芽した状態で刈られるために大きくなりません。巣が放棄された後、柄(え)が伸びてキノコとして生えてきます。このキノコは台湾でも高級食材として貴重なものなので、八重山の島民は王様への献上品として船で首里城に運んだのでしょう。キノコは刈ってしまうと日持ちがしないので、シロアリの巣ごとキノコの菌床を運ぶ方法がとられたようです。新鮮なキノコを刈って料理したものを王様が食したと考えられます。シロアリが入ったまま輸送し、シロアリだけを取り出し、キノコが出て来るのを待って料理したと思われます。またシロアリを菌床にもどし、畑を耕した後、キノコを得ることを繰り返したのでしょう。
 キノコシロアリの分布を山田明徳(やまだあきのり)准教授(長崎大学水産学部)、徳田岳(とくだがく)教授(琉球大学熱帯生物圏研究センター)のグループで調べた結果、首里城を中心とした同心円状に広がっていることが見事に確認されました。このことから、首里城で遺棄されたシロアリの集団が徐々に外へ広がったと推定されています。
(2017年12月号掲載)

沖縄の鳥事情

 イソヒヨドリのオスは、沖縄でよく見るきれいな鳥です。メスは目立たない模様です。小動物(甲殻類、昆虫、トカゲなど)を餌としています。
 那覇市内で、道路で車が何台も走っているところをネズミが右往左往しているのを見たことがあります。少し怪我をしていたかもしれません。問題はそのネズミを、車の間をぬって攻撃しようとしていたイソヒヨドリのオスです。結末を見ることはできませんでしたが、ネズミが車にひかれてしまえば、隙を見て道路から運び出すことも可能だったでしょう。驚いたのは、自分とほぼ同じ大きさのネズミを狙っていたことです。小鳥と侮れないと知り、野生のたくましさを実感しました。
 西表島(いりおもてじま)や石垣島に棲息するカンムリワシ(西表島の浦内川をボートで上っているときにちらっと見ました)は、両生類、爬虫類、甲殻類や昆虫を補食しています。ときどき、道路の電信柱などに留まっていることがあります。交通事故に遭った小動物を狙っている可能性がありますが、餌を獲りに降りている間に自分自身が交通事故に遭うとは考えていないのでしょう。食物連鎖の頂点にいるものの驕(おご)りととるか、人間社会の自動車増加の弊害ととるかは難しいところですが、ドライバーは注意が必要です。本島の北でヤンバルクイナが交通事故に遭うことも、ドライバーが優先して注意すべきです。
(2018年1月号掲載)

ホエール・ウォッチング

 沖縄では観光のひとつとして、ホエール・ウォッチングが行われています。本土の真夏とは時期がずれた12月から3月頃ですが、これはクジラがお産と子育てのために南の暖かい海を訪れるためです。対象はザトウクジラで、漢字では「座頭(ざとう)鯨」と書きます。背ビレと背中の瘤(こぶ)が、琵琶を担いだ座頭に似ているためといわれています。
 別々の会社から何艘かボートが出て、1艘がクジラを見つけると無線で連絡が入り、みんなで急行するシステムです。このため、船は高速船です。クジラが見られなかった場合は、再度、無料で乗船できるそうです。
 外海へ出るのですが小さいボートでは当然揺れるため、あまり船に慣れていない人は船酔いをして気分が悪くなります。私が行った時は、クジラが見つかるまでにかなり時間がかかったために船酔い客が多く、船長が早々に引き上げを宣言してしまいましたが、クジラの親子を見られたのは珍しかったそうです。私は元気だったので舳先で写真を撮っていましたが、一緒にいた連れの2人はともにダウンして、クジラを見るどころではなかったようです。
 帰りは行きに比べて、はるかに短時間で帰港できました。クジラを見つけた位置が、那覇港に近かったためでしょう。ジャンプなどはしませんでしたが、2頭揃って泳いでいる姿は微笑ましかったです。
(2018年8月号掲載)

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