イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

もっと知りたい漬物の魅力

株式会社山豊 生産本部 品質管理部 部長 沖本克也

漬物の歴史

 漬物は食塩を利用して野菜を長期的に保存することが可能となることから、乾物などと同様に最も古い保存食品のひとつと考えられています。平安時代の「延喜(えんぎ)式」と呼ばれる格式(律令の施行細則)の記録には、塩漬、しょうゆ漬、ぬか漬など七種類の漬物について記されており、多彩な漬物が食されていたことがうかがえます。
 江戸時代になると江戸や京都では商業としての漬物屋が出現するようになった一方で、江戸末期に表された「四季漬物塩嘉言(しきつけものしおかげん)」には多くの種類の漬物の製法が書かれており、庶民の間でも漬物が作られるようになりました。また、元禄時期以降には、ビタミンB1不足による脚気(かっけ)で「江戸患い」、「都患い」と称する病が流行しましたが、ぬか漬にはビタミンB1が豊富に含まれていることから、ぬか漬を食べると病が治ったそうです。
 明治以降も家庭で漬物が作られていましたが、戦後はスーパー・小売店の発展やトラック輸送などによる食品流通の充実、プラスチック包装や機械化の進歩により漬物製造の工業化が促進されてきました。特に近年では、食塩のみによる保存ではなく、製造・流通での低温環境の充実や工場の衛生管理、加熱殺菌技術の向上などにより、低塩分でも漬物の保存が可能となり、漬物の低塩化が一層進んできています。
(2016年7月号掲載)

漬物の栄養

 厚生労働省が公表している2015年の食事摂取基準によると、食物繊維の目標値として男性1日20g以上、女性18g以上の摂取が望ましいとされていますが、実際の摂取量はその目標値には達していません。漬物は生鮮時よりも水分含量が減少しますので、食物繊維は相対的に増加します(キュウリや大根などは2倍以上)。したがって、同じ量を食べても、漬物の形で食べた方が生野菜よりも食物繊維を多く摂取することができます。
 漬物に含まれるミネラルには、カリウム、カルシウムなどがありますが、カリウムには体内でナトリウムの排出を促し、血圧上昇を抑制する働きがあります。漬物は食塩由来のナトリウムを含んでいますが、野菜由来のカリウムも多く含まれているのです。また、漬物は野菜由来の機能性成分も数多く含んでいます。茄子や赤カブなどに含まれているアントシアン系色素は抗菌作用、抗酸化作用、老化防止作用、発がん抑制作用、抗アレルギー作用を有することが報告されています。
 漬物は乳酸菌、特に植物性乳酸菌の宝庫としても知られています。漬物の植物性乳酸菌は、ヨーグルトなどの乳酸発酵食品の動物性乳酸菌よりも摂取した後の腸内の生存率が高いとされ、整腸作用や免疫を高める作用があることも知られています。
(2016年9月号掲載)

食材としての活用

 平成25年の暮れに、「和食―日本人の伝統的な食文化」はユネスコの無形文化遺産に登録されました。そして世界的に和食が、健康食として注目されています。
 漬物は伝統食品に位置づけられていますが、その食べ方は時代に合わせて変化しています。漬物はJAS法により、ぬか漬け類、しょうゆ漬け類など10種類に分類され、なかでも近年は、赤とうがらし漬け類のキムチの出荷量が多くなっています。これは、ごはんに漬物という定番のスタイルだけではなく、豚キムチやキムチ鍋といった料理やキムチを豚肉で巻いて串に刺して焼いた居酒屋メニューなど、料理の食材として幅広く活用できるからだと考えられます。
 食材として漬物を使用するときに期待される特長としては、色鮮やかな見た目、パリパリとした食感、独特の風味などが挙げられます。たとえばいつもの料理に細かく刻んだ大根やきゅうりの漬物を加えると歯ごたえの良さが加わり、一風変わった料理に変身します。和食のイメージが強い漬物ですが、パスタのトッピングや炒飯の具材にも使われています。ほかにも太巻きやいなり寿司の具材、ギョーザの具材、海苔の代わりに葉物漬物でおむすびを巻くなどもあります。漬物はそれぞれの特長を生かした使い方で、これからも楽しい食事を演出してくれるでしょう。
(2016年10月号掲載)

漬かる原理

 漬物は、食塩水に生鮮野菜を漬け込むと出来上がりますが、そのメカニズムをミクロの世界で覗いてみましょう。野菜は多くの細胞から成り立っていて、ひとつの細胞には比較的固い細胞壁とその内側にある細胞の原形質を包む細胞膜があります。細胞膜はいわゆる半透膜※1 で、細胞は細胞液に満たされ張り切った状態となっています。
 野菜を食塩水に漬けると、食塩水のもつ高い浸透圧の作用により野菜の細胞内の水分が外部に浸出していきます。さらに原形質分離を起こして細胞の生活作用が停止する細胞死の状態となります。形状的には、固い状態からしんなりとした柔らかい状態に変化します。
 これが、「漬かった」状態で、野菜に塩味が付与される一方で、酵素が活性化されて自己分解が起こり、呈味(ていみ)※2 成分が生成されたり、青臭みが消失するようになります。さらに、野菜に付着していた植物性乳酸菌や酵母などの微生物は、細胞内から浸出してきたたん白質や糖分を利用して乳酸、エタノール、その他風味成分を生成し、漬物特有の風味を形成します。
 保存を目的とする場合には食塩濃度を20%以上にすると、野菜の酵素作用および微生物の成育が抑えられるため、長期に保存することが可能となります。
(2016年11月号掲載)

※1 一定の大きさ以下の分子またはイオンのみを通過させる膜
※2 食べ物の味。甘味、塩味、酸味、苦味、うま味など

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