イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品衛生に取り組むあなたへ(4)

リテールHACCP研究所 山森純子

仕事への誇りが「未来」を創る

 中世の時代には、個人の行動にさまざまな制約があったにもかかわらず、現代よりもはるかに仕事へのやりがいが感じられ、仕事を通じて自身の存在意義を認識することができたといわれています。
 それは、それぞれの職業が地域で唯一無二の大切な役割を担うものであり、働く人自身も周囲もそのことを認識していたことが一因だったそうです。
 現代の食のビジネスにおいては、たった1人しか保有していない能力を片時も欠かすことができない事業のほうが稀であり、たくさんの人の力を合わせて運営する事業が大半です。さらに世の中には、競合する商品や事業が常にひしめき合っています。
 しかしながら、人間に不可欠な「食の喜び」になんらかの形で貢献しながら社会に携わるという仕事には、いつの時代にも変わらない大切な役割があり、それは現代の食のビジネスにもしっかりと引き継がれています。
 皆さんの事業で、お客様が喜んでくださって嬉しかったエピソードや、自分たちが誇りに思っている点はどんなところでしょうか。すべての人が、そのような自分自身のストーリーを持てるようになれば、新しい未来を創っていくことができるでしょう。
(2021年11月号掲載)

ウイルス対策で大切なこと

 食に関わる仕事をしている私たちは、新型コロナウイルスだけでなく、ノロウイルスにも注意を向けなければならない季節を迎えています。
 吐き気や下痢など急な体調不良になってしまったときには、正しい判断をすることが難しくなってしまいがちなため、あらかじめ対応を定めておく必要があります。
 体調不良の人は完全に勤務しないようにする企業もあれば、食品に直接触れることがない仕事を担当してもらうことにする企業もあります。新型コロナウイルスと同じようにPCR検査で、ノロウイルスの「陰性」(感染なし)を確認しているところもあります。
 まずは体調不良のときに、申し出てもらいやすい組織の文化を作ることが最初の一歩です。責任感の強い人ほど、「周りに迷惑をかけてはいけない」と思って言い出せず、無理をしてしまうからです。
 ぜひ日頃からスタッフの皆さんに、「体調不良のときには、食中毒菌に感染しているかもしれないので、あなたとお客様を守るために、必ず知らせてください」とお願いしてください。そして、もし知らせてくれた人がいたら、「大変なときに知らせてくれてありがとう。なによりもまずはゆっくり身体を休めてください」と伝えましょう。あなたのその一言が、ウイルス対策に強い組織の文化を作っていきます。
(2021年12月号掲載)

選択の幅を提示する

 食品の賞味期限の設定は科学的な根拠をもって行い、表示によって正確にお知らせすることが必要です。
 また、近年は「期限切れにより大量に廃棄される食品」についても、社会的な問題となっています。
 ときどきお客様から、「賞味期限を過ぎた食品が手元にありますが、食べても大丈夫ですか?」というご質問をいただくことがあります。あなたなら、どのようにお答えしますか。
 ひとつの例としては、「賞味期限は、安全を考慮して、美味しくお召し上がりいただくための期限として設定しているものです。過ぎたとしても、すぐにお召し上がりになれなくなるものではありません」という事実をお伝えします。お電話などの場合、この時点で、お客様が大なり小なり不安を感じていらっしゃるのかそうではないのかが感触でわかるはずです。さらに、「小さなお子様やご病気などの事情で、普段からお食事に特別に気を配っていらっしゃる場合には、少しでも不安なものをお召し上がりいただくことはできないと考えております。お気持ちはいかがでしょう」というようにお尋ねします。
 最終的なご決断の前に選択の幅を提示してお聞きすることで、意思決定のプロセスにお客様自身がご参加いただけます。
(2022年1月号掲載)

法令の背景と本質を理解する

 「民は之(これ)に由(よ)らしむべし 之を知らしむべからず」とは、孔子とその弟子たちの言行を記録した書物『論語』に記されている言葉です。
 一般的には「人民を政策に従わせることはできるが、政策の内容を理解してもらうことは難しい」という意であるといわれています。
 論語は紀元前の書物ですから、現代社会とは状況が違うようにも思われますが、たとえば食品の分野においても、さまざまな角度から検討を行った結果として複雑な法令の体系により規定されていることはたくさんあるように思われます。
 それらについて、すべての事業者が法令の背景も含めて理解し、さらにお客様からのお求めなどに合わせて、その都度適切にご案内しなければならないということを考えると、その難しさは現代社会においても変わりません。
 もし、「政策に従う」ということをゴールにする場合でも、本質的な内容を理解していないと思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあるかもしれません。
 それぞれが政策に従うだけではなく、本質的な内容を理解すること、さらにより良くするために自分としての意見を持つことを併せて試みていけば、新しい道が開けていくはずです。
(2022年2月号掲載)

当事者が「大切な人」だとしたら

 食品に本来入っていてはならないものが混入している「異物混入」の事故に関しては、原材料、製造ライン、調理器具、容器や包装から、昆虫の種類や従業員への教育についてまで、日々さまざまなお問合せが寄せられます。
 せっかく商品をご購入いただいたお客様に対して大変申し訳ないことであると同時に、昨今、食品事業者にとってとても気がかりなのは、お客様が何らかのきっかけでSNSでそのことを配信され、それが想像を超えた範囲にまで拡散してしまうことでしょう。
 異物混入が起きない環境を作ることが最も大切なことですが、もうひとつ、起きてしまった事故を「事件」にしないための対応も重要です。
 ひとことで「お客様の立場になって失礼がないように行動しよう」と言っても、立場を置き換えるというのは、なかなか難しいものです。その代わりに、「自分の大切な人がその事故の当事者であったら、あなたはその人のために、どのような対応をするだろうか」と考えてみてはいかがでしょう。
 異物混入でご迷惑をおかけしているお客様が、もし自分の大切な人であったらと想像することにより、最善を尽くした対応ができているかを確認することができます。
(2022年3月号掲載)

「因果系列の重なり合い」から事故を予防する

 「偶然」を広辞苑で引くと、その説明のひとつに「ある方向に進む因果系列に対して、別の因果系列が交錯して生ずる出来事」とあります。
 私たちのHACCPの取組みにおいて、「偶然の事故が起こりやすいところ」はどこなのかを考えてみることは興味深いことです。たとえば、カレーやシチューなどの煮込み料理を大量に調理している業態の場合には、ウェルシュ菌食中毒に注意が必要です。ウェルシュ菌は、大量に調理した料理が20〜50℃程度の温度帯になったときに増殖しやすくなってしまいますので、調理後は放置せず小分けにして速やかに冷却することが基本的な予防策です。
 このような場面で偶然の事故が起こりそうな「因果系列」のひとつめは、人間が行うことですから、時には小分けも冷却も忘れて、そのまま帰宅してしまい、ウェルシュ菌の増殖が進んでしまうことです。
 そこに交錯するもうひとつの「因果系列」は、次の朝、その出しっぱなしになっている料理を見つけても味や香りに異常がなければ菌の増殖に気づくことはできませんし、たとえ知識を持っていたとしても、廃棄すると実損が生じるのでためらいが生まれるということです。
 「因果系列が重なり合って起きうる事故」という視点で事前にイメージし、対策をとることで、事故を予防することができます。
(2022年4月号掲載)

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