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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

人と犬と猫がともに暮らすこと(1)

井本動物病院 院長  井本史夫

犬の認知症

 認知症は、おおまかにいえば脳の神経細胞が変性したために起こる持続的な認知機能障害です。高齢化した犬の病気の中にも、犬の認知症といえる症状があります。
 飼い主からさまざまな行動を聞き出し、その中で認知機能低下に一致する兆候がどの程度あるかを調べたアメリカの研究レポートによると、11~12歳齢の犬の28%が認知機能低下の兆候を示していて、15~16歳齢では68%まで上昇したということです。認知機能低下の兆候があるからといってすべてが認知症につながるとは限りませんが、高齢化と認知機能低下は関係性があるといえます。
 認知症と聞くと思考力・判断力の低下や計画・実行などの高度な認知機能障害を思い浮かべますが、脳は感覚器で得た触覚や圧覚、痛覚などの体性感覚の処理も行い身体をスムーズに動かすための指令もしているので、認知機能障害だけではなく運動機能障害も考慮する必要があります。
 高齢犬がよたよた歩いたり、円を描くように歩いたり、突然腰を落とすことがあります。さらに進行すれば自力で立ち上がれなくなり、やがて寝たきりになります。このような運動機能に関する症状は、関節や筋肉や抹消神経の衰えや痛みによるものもあるでしょうが、脳内の神経全般の衰えも関わっていると考えられます。
(2022年8月号掲載)

犬が声を出す理由

 満足している犬は、吠えません。吠える必要がないからです。犬が吠えるのは何か目的があるか、不安や恐怖のために意識せずに声が出てしまうときです。
 犬が吠える目的は、さまざまです。飼い主に食事やおやつをねだるため、またテリトリーに侵入する犬や人、大きな音をさせて近づく自動車やバイクへの警告のために吠えることもあります。この警告の声は、仲間に警戒を促すための声でもあります。消防車などのサイレンやピアノなど楽器の音に刺激されて、遠吠えする犬もいます。呼応しているのでしょうか、遠くの仲間へ呼びかけているのでしょうか。
 飼い主が犬の声の意味がわかると思うのは、声を発する原因や背景がある程度わかっているからです。ボディランゲージを見ている場合もあるでしょう。犬は目的を達成すると静かになりますので、原因を推測することもできます。
 一方、不安や恐怖のために出している声は、正常な意識のもとに出ている声とは思えません。独りになったときの不安(分離不安症)で哭(な)く声、雷や花火への恐怖症のために哭く声は、犬の意識が錯乱しているときの声です。認知症による「夜哭き」も、似たような哭き声です。意識が錯乱していますので、飼い主が制止しても静かにはなりません。
(2022年10月号掲載)

犬と猫の睡眠

 動物の睡眠時間は、食のスタイルと寝場所の安全性に左右されます。
野生の肉食動物は獲物を探すための長い時間が必要で、睡眠時間を削ることもあります。草食動物は食料を探すのにそれほど時間を必要としない所に棲みますが、常に襲われる危険性があり、短い時間しか眠ることができません。どちらも基本的には短い睡眠を何回もとるタイプ(多相性睡眠)で、人間の大人のような長い眠りを1回とるタイプ(単相性睡眠)ではありません。
 犬と猫とでは安心して眠れる場所が異なります。犬は平らな場所に窪みを作り、その中で眠ろうとします。ベッド用に敷いた毛布などで、そのようなしぐさをしている犬を見たことがあると思います。何か変化があったときに、すぐに起き上がれる態勢をとっているのでしょう。一方、猫は高い場所のほうが安心して眠れます。眼下で犬や子どもが大騒ぎしていても我関せずと眠っています。犬も猫も1日の睡眠時間は13時間くらいですが、ストレスのない状況が続きますと睡眠時間は長くなります。
 身体に痛みのない健康な犬や猫は、十分に眠った後、大きな伸びとあくびをします。犬猫の伸びは活動前のストレッチも兼ねる健康のバロメーターです。大きく伸びとあくびをした犬や猫は、「今日もよく眠れた、絶好調!」と思っていることでしょう。
(2022年12月号掲載)

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