イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

認知症の予防(3)

介護問題研究家 中村和彦

孤独な人は認知症になりやすい?

 前回、認知症の発症要因として9つの項目を挙げ、そのひとつに「社会的孤立」がありました。この点について、2012年にオランダのグループが調べた結果を紹介します。2,000人余りの調査対象者のうち、一人暮らしをしている人や、家族・隣人などと交流せず孤独を感じると答えた人は約20%でした。そして3年後、孤独を感じていた人は、そうでない人に比べて認知症の発症確率が約2.5倍に達しました。孤独を感じていた人の13.4%が認知症になったとも報告しています。
 医師で認知症の患者を多く診察しているフレディ松川先生によると、過度の頑張り屋、孤独を愛する人、長いものに巻かれる(我慢する)人は、認知症になりやすいということです。孤独を愛する人は、周りのコミュニティに溶け込めず、知人との交流も途絶え、家の中に閉じこもりがちとなります。そして生活には変化がなくパターン化して、脳の刺激も減少しがちです。
 日本人は何事も一生懸命で忍耐強い国民ですが、もう少し肩の力を抜いて、友人や家族と生活を楽しむことが認知症予防には大切だといえます。高齢になって友人や仲間をつくることは難しいかもしれませんが、役所などで趣味や活動を行っている団体を紹介してくれることもありますので、問い合わせてみてはいかがでしょう。
(2018年2月号掲載)

ビールとチーズが認知症に効果的?

 キリン株式会社の健康技術研究所は東京大学などと共同で、ビールの苦み成分であるイソα酸にアルツハイマー病の進行を抑制する可能性があると発表しました。イソα酸の量は商品によって違いますが、350mlのビールやノンアルコールビール1缶あたりに10mg程度が含まれています。ホップを多く使用しているクラフトビールは総じて含有量が高くなっており、特にインディア・ペールエール(ビールの一種)には多く含まれているといいます。
 健康技術研究所はさらにチーズにも注目し、東京大学のモデルマウスを使った実験で、特にカビで発酵させたカマンベールチーズやブルーチーズにアルツハイマー病予防に効果がある可能性を確認しました。1日20g程度のカマンベールチーズの摂取で脳内の老廃物の沈着、また炎症状態が抑制されることがわかりました。
 ビールとカマンベールチーズの食べ合わせで、より効果的な認知症予防の期待が高まります。ビール好き、チーズ好きの私としては、無理なく続けられ、楽しんでできる予防法だと、密かに喜んでいる次第です。カマンベールチーズにはビタミンB2も含まれ、老化防止や乾燥肌を防ぐ効果もあるとされています。美容やダイエットのためにも、食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか。
(2018年3月号掲載)

認知症予防にコリンが有効

 認知症の原因のひとつは、脳内物質アセチルコリンの減少だともいわれています。これは脳内の情報伝達を行う物質で、特に記憶力に関係しています。アセチルコリンの原料となるコリンを適度に摂取することで、認知症予防に効果があると考えられています。コリンを多く含む食品は卵、大豆、納豆、豚レバー、ピーナッツ、赤身肉などです。中でも卵の卵黄にはコリンが豊富に含まれおり、毎日でも食べたい食品です。
 卵はコレステロールが気になるから食べないという人もいますが、体のコレステロールのほとんどは肝臓で作られていて、食事によるコレステロール摂取は2割程度です※ 。大きな影響はなく、多少食べ過ぎたとしても健康な人であれば肝臓が調節してくれます。
 卵(特に卵黄の部分)、大豆、レバー、赤身肉などには、老化や認知症予防に役立つビタミンB群や鉄などの必須栄養素も含まれています。これらの食品を組み合わせて、認知症予防を考えてみましょう。たとえば大豆を原料とする食品はたくさんあります。私が好きな組み合わせは、納豆と卵です。コリンだけではなく、卵の良質なたんぱく質は脳の血管を丈夫にしてくれますし、納豆に含まれているナットウキナーゼは血栓を溶かす作用があるため、脳の血管障害、脳梗塞、脳出血によって起こる脳血管性認知症の予防も期待できます。
(2018年5月号掲載)

※ 参考:一般社団法人日本動脈硬化学会ホームページ

歯が少ないと認知症の可能性が高まる

 歯を動かすと、脳が刺激されます。歯と歯を噛み合わせたときに刺激が歯根から脳に伝わり、感覚や運動、記憶、思考、意欲などを司っている部位の活性化につながります。
 東北大学の研究で、高齢者の歯の残存数と認知症は関連性があると判明しました。健康な人は平均14.9本の歯が残っていたのに対し、認知症の疑いのある人は9.4本でした。歯が少ないほど、記憶や学習能力に関わる海馬や、意志や思考の機能を司る前頭葉の容積が少ないこともわかりました。つまり、歯が少なくなると脳が刺激されなくなり、認知症になる可能性が高くなるのです。
 対策として、入れ歯とインプラントがあります。インプラントとは顎の骨に穴を開けて金属で作った歯根を埋め込み、その上に人工の歯を作るというものです。いずれにしても、よく噛むことを意識して食べると脳が活性化されやすくなります。
 歯が多く残っている人でも、よく噛まなければ脳に刺激を与えられません。食事以外では、ガムを噛むことも有効的です。トレーニングガムとして、市販のものより少し硬いガムが歯科医院で販売されているので使ってみるのもお勧めです。もちろん市販のガムでも効果はありますので、利用してみるとよいでしょう。
(2018年6月号掲載)

水分が不足すると認知症になりやすい?

 高齢者の熱中症が気になる季節ですが、水分不足でもうひとつ注意すべきことは認知症との関係です。人間の体内水分量は子どもが約75%なのに対し、成人は約60%、高齢者は約50%と減少していきます。また、筋肉の約75%は水分ですが、高齢になると筋肉が落ちて、ますます水分が不足することになります。
 体から水分が1%減少すると、意識が朦朧(もうろう)とし、熱中症のような意識障害が起こります(体重50kgの人で500ml)。頭がぼうっとして体がふらつき、倒れてしまうこともあります。「慢性的に水分が欠乏していると、そのうち物忘れが続き、認知症に発展する」と指摘するのは、国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授です。
 1日に必要な水分は高齢者で1500mlとされています。コップ1杯が200mlとして、3度の食事とおやつの計4回で800mlですので、あと4回ほど摂取する必要があります。おすすめは緑茶です。緑茶をよく飲む人は認知症になりにくいといわれますが、お茶の成分もさることながら、水分の量が大きく影響していると考えられます。
 認知症をすでに発症している方でも、水分を十分にとることで徘徊や大声を出して暴れるといった行為が減少すると、竹内教授はおっしゃっています。
(2018年7月号掲載)

認知症は「早期発見」が時流に

 内閣府の平成29年版高齢者社会白書によると、65歳以上の認知症患者数は2025年には約700万人となり、高齢者の5人に1人が認知症と推計しています。こうしたことから東京都は、2020年度までに70歳以上の都民は無料で認知症の検査を受けられる仕組みを作ると発表しました。やや遅きに失する感はありますが、認知症を早期発見したいという意図でしょう。
 一方、株式会社エス・エム・エスは、認知症・MCI(軽度認知障害)の早期発見のための自己診断テスト「認知機能チェック」の受検者数が累計16万人を突破したと発表しました。ここ1年の受検者数は対前年比約105%に増加し、認知症予防への関心が高まりつつあるようです。
 MCIとは、認知機能である記憶、決定、理由付け、実行などのうち、どれかに問題があるものの、日常生活には支障がない状態のことをいいます。厚生労働省は、MCIの人口を862万人と発表しています。これは、65歳以上の4人に1人という割合です。
 認知症は早期発見によって回復が見込めるといわれており、脳の認知機能はトレーニングにより鍛えることができます。早期にMCIを発見すれば認知症を発症しないこともありますので、50代、60代の方も診断を受けてみることをお勧めします。
(2019年5月号掲載)

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