イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

高齢社会で生きる

介護福祉士 中村和彦

低体温症の高齢者が増加

 寒い時期に高齢者が注意すべき病として、風邪やインフルエンザのほかに低体温症があります。いわゆる凍死の原因となるもので、2016年には1093人が亡くなっています。これは熱中症よりも多い数です。凍死は屋外という印象ですが、約7割の方が家の中で亡くなっています。
 人の体は深部体温が35度を下回ると筋肉がこわばり、反応が鈍ってきます。さらに体温が下がると思考力や判断力が低下し、30度以下になると昏睡状態になるといいます。低体温症は温度の感覚が低下している高齢者に多くみられ、体温が低下する原因のひとつは運動不足です。
 運動量が少ないと、体の深部体温が上がりにくくなります。医学博士の石原結實(いしはらゆうみ)先生によると、「人は体温36度5分以上で正常に働くようにできており、体温が1度下がると免疫を司る白血球の働きが30%以上もダウンし、免疫に関わる腸の働きも低下する」のだそうです。逆に体温を1度上げると、免疫力は一時的に5~6倍アップします。
 低体温症のサインとしては、顔がピンク色で腫れぼったい、皮膚が青白い、体に震えがみられるといったことがあります。予防策としては、部屋の温度を19度以上に保つ、こたつを使う、重ね着をする、座るときはひざ掛けを使う、厚手のソックスを履く、寝るときはパジャマの下にアンダーウェアを着るなどが効果的です。
(2019年4月号掲載)

誤嚥性肺炎を防ぐ高齢者の食事介助

 多くの高齢者にとって、食事は楽しみとともにリスクという側面もあります。よく見られる誤嚥(ごえん)は、その最たるものです。本来、食物は喉を通って食道から胃へと送られますが、誤って気管に入ってしまうことを誤嚥といいます。気管に入ると肺に到達して肺炎(誤嚥性肺炎)を生じることがあり、時には命に関わるほど重病化することもあります。
 誤嚥を防ぐ食事法としては、まず正しい姿勢を保つことです。椅子に座ったら両足をしっかりと床につけ、上半身が少し前傾になるようにします。横に傾斜するときはクッションなどで傾斜を修正します。そして、すぐに食べ始めるのではなく、まずはお茶や汁物を飲むようにしましょう。これは一口目が最も誤嚥しやすいからであり、食べる前に喉を潤すことでスムーズに飲み込めるようにするためです。
 食事介助が必要な高齢者には、出されたメニューを伝えて何から食べたいかを尋ねます。口に食べものが入っているときはあまり話しかけないで、飲み込みを確認してから次の食物を口に入れてあげましょう。顎が上がっていると、誤嚥しやすくなります。箸やスプーンは斜め下から持っていくことで顎の上がりを防止できます。最後にお茶や水などで口の中に残った食べ物を飲み込んでもらいましょう。常に高齢者の死因上位の誤嚥性肺炎ですが、食事の仕方で防ぐことはできるのです。
(2019年6月号掲載)

入院拒否が多発する認知症高齢者

 介護施設で新型コロナウイルスの感染が発生するとクラスターになりやすく、実際にそうした施設が増えています。利用者の多くが認知症の高齢者のため病院側も入院を渋り、何日も待たされるケースが多いようです。そしてその間に、ほかの利用者も次々に感染してしまいます。認知症や精神疾患のある人たちの医療の受け皿はもともと不足していて、新型コロナウイルスで、より鮮明になってきたと考えられます。
 医師や看護師がいないグループホームなどの施設では医療処置が行えず、職員が防護服を着て対応せざるを得ません。医師が派遣されれば酸素の投与や点滴などはできますが、24時間対応はできないのが現状です。
 厚生労働省によると、今年2月15日時点で高齢者福祉施設におけるクラスター件数は1017件。全国のクラスター発生件数が5104件で、高齢者福祉施設は約20%と最も高い発生数となっています。次いで、飲食店が947件、企業が941件、医療機関が874件、学校・教育施設が624件などでした。
 今後は、認知症の専門スタッフがいる病院で、新型コロナウイルスに感染した認知症高齢者を受け入れる態勢を強化することが望まれます。入院までに時間がかかる場合は、医療従事者のいない介護施設に専門のスタッフを早急に派遣し、十分に支援していく必要があります。
(2021年5月号掲載)

参考:老人ホーム・介護情報サイト
『介護カレンダー』

親の介護の費用は誰が負担する?

 2023年8月に株式会社ファミトラ(東京都港区)が実施した「親の老後のお金調査」によると、約8割の人が親の預金額を「知らない」と回答しました。「親が認知症になると親名義の自宅が売却できないことを知っていますか?」という質問には、73%が「知らない」、27%が「知っている」と回答しました。親名義の不動産売却ができなくなる事態への対策としてもっとも知られているのは生前贈与で、家族信託や任意後見制度などを大きく上回りました。そして約9割の人は、親名義の不動産が売却できなくなることへの対策をとっていないこともわかりました。また、「親の介護施設入居の費用には誰のお金を使いますか?」に対しては「親の現預金、金融資産、年金から支払い、足りなければ親の家を売却する」(30.5%)、「親の現預金、金融資産、年金から支払い、足りなければ自分が負担する」(55.4%)と回答しています。
 本調査から、多くの人が親の預金額や親が認知症になると親名義の不動産の売却ができなくなることを知らないのに、親の介護施設入居費用は親の資産をあてにしているという実態がみられました。認知症は本人だけでなく、家族の生活に大きく関わる問題です。お金や財産のことを親と話し合うことは抵抗があるでしょうが、少しずつ理解を促すよう話をしてみてはいかがでしょうか。
(2024年2月号掲載)

長時間座っていると要介護化リスクが上昇

 長時間座ったままでいると筋肉の代謝や血行を低下させ、健康に害を及ぼすといわれています。WHOも「座ったままの時間を減らして何かしらの身体活動に置き換えること」を推奨しています。
 福岡工業大学は座位行動(座りがちな生活行動)と要介護化リスクとの関係を研究してきました。研究では1日あたりの座位行動時間の長さが、将来の要介護化リスクにどう関連するのかを調べるため、2011年から9年間にわたって健康な高齢者2629人を追跡調査しました。その結果、1日あたりの座位行動に費やす時間を10分間、運動(ジョギングや階段上り)に置き換えると、要介護化リスクが約12%低減できる可能性があることが判明しました。ただし、軽強度身体活動ではこの結果は得られず、中強度以上の運動が有効であることもわかりました。中強度とは歩行だと大股で早く歩き、うっすら汗ばむほどの運動です。山歩きや畑仕事なども同等の運動です。低強度は屋外だと意識せずにだらだら歩くこと、室内では掃除や洗濯などの家事が該当します。
 福岡工業大学は今回の調査を、糟屋郡篠栗町(ささぐりまち)と共同で取り組み、昨年度は、高齢者施設や町民らと一緒に中強度の運動(ジョギングや家事)を1日の空いている時間に実施する「ちょい活」運動を実施しました。要介護化予防をはじめ、健康づくりの弾みになればと期待されています。
(2024年4月号掲載)

避難所では認知症の症状が現れやすい?

 能登半島地震の被災地では、現在も多くの高齢者が避難所生活を送っていますが、認知症介護研究・研修仙台センターが2013年に発行した『避難所での認知症の人と家族支援ガイド』(支援者用※1 )には、東日本大震災後の避難所で実際に支援にあたられた514事業所、機関の方々へのアンケート調査から、震災直後に避難所で何が起こったかがまとめられています。調査によると、認知症の人は急激な環境の変化に弱く、BPSD※2 を発生させていたことが明らかになりました。避難所では、イライラして落ち着かない、徘徊、帰宅願望などの症状が多く見られ、中には地震や津波があったこと自体忘れてしまう人もいて、介護する側を疲弊させたといいます。
 対応として、避難所では認知症の方専用のスペースの確保や、顔見知りの人が近くにいるなど静かに落ち着ける環境をつくること、認知症であることを周囲に理解してもらうことが重要とされています。また会話をするときは急がせない、驚かせない、自尊心を傷つけない、を心掛けると良いでしょう。
 ちなみに現地の支援者の7割が認知症の人が避難所で過ごせる限界を「1~3日」と答えていることも明らかにしており、全国の自治体が本気で対応を考えるべきだといえます。
(2024年5月号掲載)

※1 避難所を支援した621事例から作った
『避難所での認知症の人と家族支援ガイド』
(支援者用)https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/201/201.pdf
※2 「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略語。
認知症の行動心理症状

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