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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

誌上でめぐる世界の恐竜化石(1)

独立行政法人 国立科学博物館 副館長・研究調整役 真鍋真

アルゼンチン

 よく、「子どもの頃からの夢が叶ってよかったですね」と言われるのですが、私が恐竜化石を研究したいと思ったのは大学生になってからです。恐竜などの化石を研究すれば、世界中に仲間ができたり発掘に行けるのではないかという思いもありました。コロナ禍で今年の夏も海外旅行は難しそうですが、この連載を読まれた皆さんが、次の旅の目的地選びに恐竜のことも考えてくださったら嬉しいです。
 国立科学博物館の恐竜展示室には、ヘレラサウルスという恐竜が展示されています。約2億2000万年前の中生代三畳紀に現在のアルゼンチンに生息していた最古級の恐竜のひとつです。肉食と草食、二足歩行や四足歩行など1000種類以上の恐竜が知られていますが、ヘレラサウルスの状態から、初期の恐竜は小型で二足歩行で肉食だったと考えられています。ワニなどの爬虫類を見ると、四足歩行でガニマタ、ヒザが胴体の横に突き出ています。恐竜がなぜ二足歩行になったのかはわかりませんが、ヒザを横に突き出さない歩き方をするのが恐竜の特徴です。そうするとコンパスが長くなるので、恐竜はほかの爬虫類よりも速く走れるようになり、大繁栄しました。国立科学博物館のヘレラサウルスの写真や標本情報は、ホームページの常設展示データベースなどでご覧いただけます※ 。ヘレラサウルスに会いに、ぜひお立ち寄りください。
(2021年8月号掲載)

※ 国立科学博物館常設展示データベース: http://db.kahaku.go.jp/exh/

中国

 ヒザを体の横に突き出すのではなく、胴体の真下に伸ばして歩くことが恐竜の特徴です。そうするとコンパスが長くなるので、恐竜はほかの爬虫類よりも速く走ることができるようになりました。足跡の化石によって、歩き方がわかります。ワニのような爬虫類はガニ股なので、左足と右足は左右に離れています。恐竜の足跡は、左右の足がほぼ一直線上に並びます。今年7月、「エウブロンテス・ノビタイ」という学名の新種の足跡が発表されました。するどいカギツメがあることから肉食恐竜のもので、足裏の長さが30cmくらいなので、全長4mくらいの恐竜と推定されます。今から約1億2500万年前の白亜紀前期に現在の中国の四川省を歩いていたものです。「エウブロンテス」は世界各地から報告されていますが、それらとは指の開き方や向きなどが異なることから、中国地質大学(北京)のシン・リーター准教授は新種だと考え、「ノビタイ」と名づけました。
 シン准教授は子どもの頃から「ドラえもん」の大ファンで、のび太が恐竜に自分の名前をつけたいと思っていることを知り、のび太の夢を叶えたいと思ったそうです。最後の「イ」は、人名を意味する接尾辞です。足跡化石の実物は四川省に展示されていますが、その一歩分のレプリカが川崎市藤子・F・不二雄ミュージアムで公開されています。
(2021年10月号掲載)

ウズベキスタン

 ウズベキスタンは、ユーラシア大陸の真ん中にあります。今から約9000万年前の白亜紀後期、アジアとヨーロッパは浅い海で隔てられていて、ウズベキスタンのあたりがアジア大陸の西端だったようです。
 筑波大学の田中康平博士らは2021年9月、ウズベキスタンの新種の肉食恐竜を「ウルグベグサウルス」と命名しました。ウルグ・ベグは、15世紀のティムール王朝の君主で数学者・天文学者だったそうです。
 化石は長さ24cmぐらいの上顎の一部で、カルカロドントサウルス類に分類され、全長は8mと推定されました。カルカロドントサウルス類では南米最大級の肉食恐竜ギガノトサウルス(推定全長13m)などが有名です。白亜紀後期の北半球ではティラノサウルス類が、南半球ではカルカロドントサウルス類が食物連鎖の頂点にいました。北米でも、白亜紀前期(約1億2500万年前)の最大肉食恐竜は、カルカロドントサウルス類のアクロカントサウルスでした。白亜紀後期にアジア大陸からティラノサウルス類が渡ってきて、ティラノサウルスが食物連鎖の頂点になりました。今回、ウズベキスタンでは9000万年前までは、カルカロドントサウルス類がティラノサウルス類よりも優勢だったことがわかりました。もっと化石が見つかると、北半球でティラノサウルス類がどのように頂点に登っていったのかを明らかにできるかもしれません。
(2021年12月号掲載)

イギリス

 「恐竜(Dinosaur)」は、イギリス・大英自然史博物館のリチャード・オーウェン博士が1842年に提唱した名称です。1820年代から、全長十数メートル以上と推定される大型爬虫類の化石が発見されるようになりました。オーウェン博士は、「メガロサウルス」、「イグアノドン」、「ヒラエオサウルス」という、イギリスの1億数千万年前のジュラ紀や白亜紀の地層から発見されていた大型爬虫類を恐竜と名付けました。
 恐竜の存在に最初に気づいたのは、イギリスの医師ギデオン・マンテル氏だといわれています。1822年頃、往診に同行した婦人が、道路舗装のために積み上げられた白っぽい岩石の中に黒い歯の化石を見つけました。彼は、その歯の形はイグアナに似ているが、その大きさから巨大な爬虫類がかつて存在したことに気づきました。
 チャールズ・ダーウィンの進化論『種の起源』(1859年)が発表される前のことでした。学界からは、「爬虫類に、大きくなる能力はないだろう。大きいのであれば、それは哺乳類だ」と反対されてしまいます。しかし、マンテル氏はイグアナの歯という意味の「イグアノドン」を1825年に発表します。その後、恐竜は世界中の地層から発見されるようになりました。イグアノドンの化石を見たら、「マンテルさん、がんばってくれてありがとう」と、声をかけてあげてください。
(2022年2月号掲載)

アメリカ

 トリケラトプスは、今から約6800万〜6600万年前頃の白亜紀最末期に北アメリカ大陸に生息していた角竜(つのりゅう)です。トリ(3)+ケラト(角)+オプス(顔)という学名からもわかるように、3本の角を持っています。最も大きな個体は全長約9m、推定体重約6tで、角竜の中でも最大級の種でした。全長12mの肉食恐竜ティラノサウルスにとっても、その角は脅威だったようです。あるティラノサウルスは、トリケラトプスの後ろ側から近づいていって、後ろから角に咬みつき、角をへし折ったようです。トリケラトプスの化石に残されたティラノサウルスの歯型から、そのような戦いをも復元することができます。
 角竜というグループ名から、角の形や大きさ、本数などが重要に思われますが、角竜の進化を遡ってみると、フリルと呼ばれる後頭部の板状の突起のほうが、より重要そうです。初期の角竜の角は、鼻の上に小さいものがあるくらいですが、フリルは後頭部から首の上側に伸びているため、肉食恐竜の攻撃から急所である首を守る役割があったと考えられています。前述の角をへし折られたトリケラトプスのフリルにも、ティラノサウルスの咬み痕が残っていましたが、フリルを折ることはできなかったようです。今度、トリケラトプスを見るときには、フリルの厚みにも注目してください。
(2022年4月号掲載)

アメリカ その2

 前回ご紹介したように、トリケラトプスの天敵はティラノサウルスでした。ティラノサウルスは白亜紀最末期に北アメリカに生息した、最後の大型肉食恐竜として有名です。あるティラノサウルスの状態の良い化石には、「スー」という愛称がつけられています。「スー」は約10億円で落札されて、一躍有名になりました。しかし2020年、「スタン」という別のティラノサウルスの化石が約33億円で落札され、記録が大きく更新されました。「スー」のレプリカには北九州市立自然史・歴史博物館で、「スタン」と「バッキー」というティラノサウルスのレプリカには国立科学博物館で会うことができます。
 今年の3月、ティラノサウルスを3つの種に分けるべきだという研究が発表されました。「スー」たちはティラノサウルス・レックスのままなのですが、「バッキー」たちはティラノサウルス・インペラトール、「スタン」たちはティラノサウルス・レジナという新種に、という提案です。
 がっしりとした「スー」はメスで、ほっそりとした「スタン」がオスではないかという研究はありましたが、別種だというのは初めてです。現時点では、この新種を使う恐竜学者はごく少数だろうと考えられています。新型コロナウイルス感染症が収束したら、世界各地の博物館のいろいろなティラノサウルスに会いに行ってくださいね。
(2022年6月号掲載)

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