イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える(1)

オフィス環監未来塾 代表 中臣昌広
▼企業向けBCPの情報(オフィス環監未来塾のホームページ)▼
https://kankan-mirai.com/企業向けbcp研修/

BCP策定のメリット

 新型コロナウイルス感染症の影響のなか、多くの企業が事業の見直しや一時的な縮小など、「そうせざるを得ない状況」を経験しました。このような社会情勢の変化により、感染症対応や災害対応を考慮したBCP(事業継続計画)策定の重要性が高まっています。しかし現在、BCPの策定率は低く、中小企業では15%未満といわれています。そこで今回から、感染症対応や災害対応を踏まえたBCP策定に役立つ情報を、保健所・環境衛生監視員の視点からお届けします。
 BCPは、感染症発生時、災害発生時に事業を止めないで継続するための計画です。平常時に何をしておくのか、緊急時にどう行動するのか、事業継続のための手法や手段などを取り決めておきます。BCP策定には手間がかかる半面、メリットもあります。BCP策定をしている企業は信用力が向上し、販路開拓の道が開ける場合もあるでしょう。経済産業大臣により、中小企業が策定した計画が事業継続力強化計画と認定されれば、その企業は税制措置や金融支援、補助金の加点などの支援策を受けられる可能性があります。
 なによりも、BCP策定企業は災害発生時の平均復旧期間が13日といわれ、未策定企業の41日と比べて約3倍早いとされています。次回は、衛生視点のBCPについて具体的にみていきましょう。
(2023年1月号掲載)

感染症予防を考えた避難生活

 新型コロナウイルス感染症の影響が長く続くなか、災害時の避難生活においても対策を欠かすことはできません。
 気温が低い時期には、暖房を効かせるために窓を閉めきりにする傾向があり、換気が不十分になりやすくなります。そのため、ウイルスを含んだ飛沫やエアロゾルが空気中に舞ったときには、感染リスクが高まる可能性があります。
 避難生活の際にも、感染防止のために換気に気を配る必要があります。換気が必要かどうかの目安になるのが、二酸化炭素濃度です。通常の目安は建築物衛生法の空気環境基準である1000ppm以下ですが、気温が低い時期に、風邪やインフルエンザ、低体温症の予防を優先して考える場合には、学校環境衛生基準の1500ppm以下を目安にするとよいでしょう。
 濃度を正確に把握するには、二酸化炭素測定器を購入して、普段から使用に慣れておくことが大切です。購入にあたっては、経済産業省の「二酸化炭素濃度測定器の選定等に関するガイドライン」を参考に、検知原理が光学式のNDIRや光音響方式などを用いたもので、補正機能があるものを選ぶことをお勧めします。私はそれに加えて、メーカー仕様で、精度がおよそ5%以内の誤差範囲のものを選んでいます。
(2023年3月号掲載)

感染症予防と空気環境

 病院や高齢者施設、高齢者が在室する空間などでは、今後もしばらく新型コロナウイルス感染症への対応を考慮する必要があるでしょう。同様に、災害時の避難生活に高齢者の方がいる場合、感染症予防のための空気環境を考えていくことが重要です。
 電気が使用可能な状況では、換気装置を使った空気の入れ換えが有効です。最近では、部屋ごとの個別空調のために、各部屋に全熱交換器が設けられることが多くあります。夏季であれば、室内の冷房の排気と、屋外の熱気の給気とを薄い膜越しに触れ合わせて、外気を冷やしながら取り入れる装置です。
 感染防止には、補助的な空気清浄機の使用も有効です。使用フィルターに静電の捕集作用のあるHEPAフィルター相当の除去効率があれば、ウイルス除去にも効果があるとされています。ただし、大型でないかぎり、空気を強く吸い込む範囲は半径2mくらいではないかと思いますので、高齢者が他者と接近する場合などでは風量を一時的に「中」~「強」にするとよいでしょう。空気環境で注意しなければならないのは、風の流れです。過去のクラスター事例では、ウイルスを含んだ飛沫やエアロゾルが風上から風下へ広がったケースがあります。サーキュレーターは、人に風を直接当てない向きで使用するのがよいでしょう。
(2023年5月号掲載)

感染症予防と自然換気

 自然災害と感染症拡大とが重なったとき、避難所・避難生活ではどのような対応をとればよいのでしょうか。室内の空気環境の特性や換気方法を押さえておくことで、健康リスクを低くすることができます。
 ライフラインが止まったとき、感染予防のためには「自然換気」に頼らざるを得ません。望ましいのは、対面の窓を開けての2方向換気ですが、実際には窓や扉が1か所しかなく、対面換気ができないことがあります。その場合でも、ある程度の換気が可能です。
 ここで空気の性質をみてみましょう。たとえば、東京で冬の外気温が5℃、室内温度が25℃とすると、温度差は20℃です。換気箇所を掃出し窓の1か所と仮定し、窓を開けると、室内空気と外気とが混ざり合い、均一の温度・湿度になろうとして空気の移動が起こるので、外気温と室内温度の差が大きいほど換気が進みやすくなります。夏の室内外の温度差は10℃くらいですので、冬のほうが、窓や扉が1か所の開放でも換気が進行しやすいといえるでしょう。2月上旬、外気温が6℃のとき、公衆浴場の入り口扉付近で煙を使い、空気の流れを実験しました。すると、膝下くらいで煙が室内へ真横にたなびきました。扉1か所でも換気が確認できたのです。ただし、床面に冷たい空気が入るので、寝る場所にはベッド類の使用が望ましいでしょう。
(2023年7月号掲載)

浴場休止・再開とレジオネラ症対策

 自然災害が起きて一時的にライフラインが停止したあと、水道や都市ガスなどが復旧したときに注意しなければならない点があります。公衆浴場のほか、旅館やホテル、介護施設、工場などの大浴場の休止・再開時のレジオネラ症対策です。
 大浴場では、浴槽の湯を循環処理して繰り返し利用する「循環ろ過式」が多くみられます。そうした施設での過去のレジオネラ症患者発生事例をみると、高リスクだった一例が、施設をいったん休止して再開したときでした。なぜかというとそれは、レジオネラ症の原因菌であるレジオネラ属菌が増殖する条件と重なるからです。ひとつは、湯が配管中に留まることで菌が増殖しやすくなること、もうひとつは、レジオネラ属菌は温度20~45℃で増殖することです。災害時のように、一時的にライフラインが停止した状態でも同じことが起こり得ます。
 では、どのようにしたら良いのでしょうか。一定期間、浴槽が使用できないと判断された場合は、配管中の湯水をすべて抜くことが最善です。災害時に残り湯を有効に使いたいと考えるなら、浴槽の湯を別の容器などに移したあとに、配管中の湯を抜くと良いでしょう。再開時には、設備の点検・整備のあと、浴槽に湯を張り、次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒剤を入れ、浴槽水を1~2時間以上循環させて状況を確認します。
(2023年9月号掲載)

土ぼこりとレジオネラ肺炎

 過去の津波災害では、がれき撤去作業や浸水建造物の清掃が感染経路となり、レジオネラ肺炎になった例がありました。また、河川氾濫の水害被災地では、浸水地に残った泥の土ぼこりを吸い込んでレジオネラ肺炎になった例もあります。連日にわたる被災建物の片づけ作業などによる過労が原因で免疫力が下がった方も、レジオネラ肺炎に感染するリスクが生じます。
 施設や工場などでは、災害時にレジオネラ肺炎を予防するために以下のような注意点があります。(1)着替えスペースの設置:衣服に付いた泥や土ぼこりが室内に持ちこまれないよう、入り口外に男女別のテント状の着替えスペースを設けましょう。(2)靴箱と靴洗いスペースの屋外設置:靴箱は屋外に設置します。発災当初で靴箱が用意できない場合は、靴をビニール袋に入れて屋外で保管しましょう。汚れた靴を洗うスペースが、靴箱の近くにあると便利です。(3)玄関回りの水まき:玄関の開閉に伴い、土ぼこりが室内へ入る可能性があります。玄関回りや玄関前の歩道・道路は定期的に水まきをして、土ぼこりが立ちにくいようにしましょう。(4)マスクの着用:土ぼこりが舞う可能性があるときは、屋外でもマスクをつけましょう。屋内も、外から土ぼこりが入る可能性があれば、マスク着用を推奨します。
(2023年11月号掲載)

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