イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

障がい者が働きやすい職場を目指して

就労継続支援B型事業所 ココロスキップ 施設長 大政マミ

「働きたい」と思う会社

 私たちは、さまざまな障がいや病気を抱えた方々と「点字名刺プロジェクト」を運営しています。一般企業では、どうしても効率や生産性を求められ、障がい者にとっては働きにくい環境もあると思います。では、どうすれば働きやすい環境を作ることができるのでしょうか。
 そのヒントは、「福祉資本主義」という考えです。今ある既存の仕事に障がい者を合わせるのではなく、障がい者に合わせて仕事を生み出すことで、みなさんが自分らしく働くことができると思います。たとえば、私が名刺に点字を刻印しても特別な価値を付けることはできませんが、視覚障がい者の方々が一生懸命に点字刻印の仕事をするからこそ、その名刺に付加価値が生まれ、感動を与えることができると思うのです。
 視覚障がい者だけで、すべての作業工程を行うことはできません。お客様へのメール、請求書や納品書の作成、完成した点字名刺の梱包業務など、精神障がいや知的障がいのある方々が、自分のできること、得意とすることで協力し合うことにより、「点字名刺プロジェクト」は成り立っています。苦手なことを頑張るのではなく、多様な人たちがそれぞれの得意なことやできることに一生懸命取り組める環境を創り出せる企業が、障がい者のみなさんにとっても働きやすく、働きたいと思う企業なのではないでしょうか。
(2022年1月号掲載)

上司や同僚に望むこと

 福祉作業所を立ち上げて間もない頃、強迫性障がいを抱えているAさんが入所しました。Aさんは、何かに触れることへの恐怖と闘っていました。たとえば、見た目がきれいな机や蛇口でも「汚い」という強迫観念に苛(さいな)まれてしまい、触ることができません。私は「なぜ汚いと思うのだろう」と深い疑問を抱きながらもAさんの現状を受け止め、職員たちはAさんに代わって机を拭いたり蛇口を開け閉めしていました。
 そんなAさんには、「字を書く」という得意なことがありました。ペンを汚いと感じながらも、「字を書くことが好き」という気持ちが恐怖を上回っていました。このことを活かし、お客様への感謝の手紙を担当してもらったところ、励ましの言葉やお褒めのお返事が殺到しました。
 周囲が特性を受け入れ、お客様からも存在を認めていただいたことでAさんは自信がつき、5年経った今では自ら机を拭き、蛇口も閉められるようになりました。Aさんだけではなく、入所者の皆さんは自分のできることを率先して引き受けてくれています。お昼休憩の時間には、ポットにお湯を準備してくれたり飲み終わったカップを片づけてくれたりします。皆さん、根底には「自分の存在を認めてほしい」という思いがあるのではないでしょうか。お互いの存在を認め合う職場こそが、障がいを持つ人にも持たない人にも働きやすいのだと思います。
(2022年3月号掲載)

「こだわり」を見守る

 私たちの施設では、視覚障がい・精神障がい・知的障がいなど、さまざまな障がいをお持ちの方が、それぞれの課題と向き合いながら一生懸命に働いています。
 障がい特性の中に、「こだわり」というものがあります。ダウン症のAさんは、お弁当にどんなおかずが入っていたか、一番おいしかったおかずは何だったかを伝えるため、自分が完食したお弁当箱を毎日順番通りにニコニコしながら見せて回っています。しかし、対象となる人が買いものに出かけていたりすると、順番通りに回れませんので「こだわり」を通すことができず、とても悲しい気持ちになってしまいます。
 Aさんがお弁当箱をみんなに見せる理由は、完食したことをみんなから褒めてもらえること、そしてそれが自分の役割だと理解しているからだと思います。Aさんがスタッフ一人ひとりとコミュニケーションを取ることで職場の雰囲気が明るくなり、また、スタッフそれぞれにAさんへの配慮の気持ちが芽生えます。Aさんにとっても、役割を果たしたという充実感が得られます。「こだわり」が強ければ強いほど、場の空気が読めないために排除されやすい傾向にありますが、その「こだわり」を見守ることのできる環境こそが、障がいを持つ人にとっても周囲の方々にとっても働きやすい職場なのだと思います。
(2022年5月号掲載)

「得意なこと」に目を向ける

 私たちの施設では、さまざまな障害をお持ちの方が仕事に取り組んでいます。何度も同じ間違いをしてしまう精神障がいのあるAさんは、こちらが注意すると理解はしてくれるものの、時間が経つにつれて自分のこだわりが優先されてしまい、ミスを繰り返していました。口頭での説明だけではなかなか改善されなかったため、作業の説明書きを目の届く場所に置いてみるなどしましたが、変化はありませんでした。ある日、Aさんのミスによりお客様との間でトラブルが発生してしまい、私は厳しい言い方でAさんを注意してしまいました。それ以降、Aさんは注意されないようにするため、私を避けるようになってしまったのです。
 障がいのある方の中には、脳の特性により、得意な分野と不得意な分野がはっきりしている方もいます。このトラブル以降、苦手なことやできないことを改善させるよりも、その方の特性を理解し、受け入れ、その特性を活かせる環境を作ることが大切だと強く考えるようになりました。
 そこで、Aさんの仕事を動画編集に変えてみたところ、Aさんの持っているこだわりの特性が良い方向に発揮され、職場で作業を行うだけにとどまらず、自宅でも動画編集の勉強をするようになりました。周りからも評価を受け、表情が穏やかになっていくAさんを見て改めて、怒ることよりもその方の得意なことに目を向けることの重要性を実感しました。
(2022年7月号掲載)

「個性」を受け入れる

 私たちの施設(ココロスキップ)では、さまざまな障がいをお持ちの方が仕事に取り組んでいます。利用者さんの中には個性の強い方も、考えや言動などが特異な方もいます。そのため、周りの皆さんが違和感を覚えて、トラブルになることもありました。
 そこで私は、「施設運営にとって大切なのは、皆さんの個性を受け入れることだ」と考えるようにしました。どんなに強い障がい特性や個性があったとしても、施設長である私がそれを受け入れたいという姿勢を利用者の皆さんに見ていただくことで、施設全体に排除ではなく許容する気持ちが広がります。そして、私が障がい特性や個性を受け入れたいと思っているとわかってもらうことで安心感が生まれ、自然とトラブルが少なくなりました。
 ココロスキップの利用者さんの中には、社会にうまく適応できない方もいます。就労継続支援B型事業所は、そういった方の居場所としての役割も担っています。
 しかし、もしこの施設で「排除の論理」が成り立ってしまったら、その方は行く場所がなくなってしまいます。個性の強い方を受け入れることこそが、利用者の皆さんが心地よく働ける環境を作ることになるのではないかと考えています。
(2022年9月号掲載)

誰もが幸せに働く社会のために

 私たちの福祉施設で大切にしていることは、「さまざまな障がい特性を受け入れ、ありのままを否定しないこと」です。
 私は、かつて精神的に不安定になり、辛い日々を過ごしていたことがあります。また、私の叔父は交通事故で脳に大きな損傷を受け、障がい者となりました。健康な状態で産まれたとしても、誰しも障がいを持ってしまう可能性を抱きながら生きているのだと思います。
 一般企業では、「仕事が遅い」、「効率が悪い」、「コミュニケーションが取れない」といったさまざまな理由により、働き続けることを受け入れてもらえない場面があります。そういった環境により、一般企業で働くことができなかったときに「就労の機会」が途絶えてしまい、家に引きこもるしか方法がなくなってしまうのがよいことだとは思えません。
 私たちは、「健常者」に「障がい者」が合わせるのではなく、「障がいがあるからこそ価値の生まれる仕事」を提供することにより、両者の就労の機会を増やしていこうと考えています。これまでの「資本主義」に加え、この「福祉資本主義」という新たな理念を基に、幸せな社会を実現したいと考えています。やりがいを持って仕事をすること、またその機会があることは、「障がい者手帳を持っている・いない」にかかわらず、大切なことだと思うからです。
(2022年11月号掲載)

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