イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

連れてこられた外来種たち

イカリ消毒株式会社 名誉技術顧問 谷川力

有害生物相談件数の変化

 公益社団法人日本ペストコントロール協会では、毎年47都道府県協会から寄せられた害虫獣相談の集計報告をまとめています。相談件数は年々増加傾向にあり、2016年度以降は4万件を超えるようになりました。その内訳は、種類別、月別にまとめられており、この中で常に上位の種類と増加傾向にある種類について集計してみました。
 相談件数の総数は、2009年は3万1178件でしたが、2020年には5万511件と1.6倍になりました。このうち伸長率が高いのは、ハチ類、ネズミ類、ハクビシン、アライグマ、トコジラミ、コウモリ類などでした。ハチ類、トコジラミ、コウモリ類は季節的消長が明確で、夏季に増加し、冬季に減少する傾向がみられます。ネズミ類は秋季に増加して冬季にピークを迎え、春季に減少します。ハクビシンには決まった繁殖期がないことが知られていますが、4月と10月に増加し、8月に減少傾向があることがわかりました。アライグマは、5月にピークがみられます。これは春季の3~4月頃に誕生した個体が活動できるようになる頃に、エサの豊富な生活圏に移ることで被害が発生するためではないかと考えられています。
 ただし、ハクビシン、アライグマについてはまだ相談件数が多くないことから、今後累積された段階でさらに検討すべきと考えています。
(2022年10月号掲載)

ヒアリの駆除

 ヒアリは、人を刺すおそれのある特定外来生物※ の一種です。体長2~6mmの赤茶色の目立つアリで、高い採餌能力や防御物質の分泌、働きアリの侵略などにより他種のアリと競合し駆逐する性質があります。女王アリは1日に2000~3000個の卵を産むことが可能で、巣内の個体数が大量に増えると大きな蟻塚を作ります。南米原産ですが、亜熱帯や温帯でも生息が可能です。日本でヒアリが見つかる場所の多くは、コンテナヤードです。コンテナヤードとは、保税地域の港頭地区で海上コンテナを一時的に保管しておく施設のことです。このコンテナ内にヒアリが潜み、日本国内に侵入したと思われます。
 ヒアリの駆除は、コンテナヤードに入ることから始まります。ここではコンテナを吊り上げるガントリークレーンが絶えず動いており、非常に危険な場所です。クレーンは50mほどあり、ビルでいうと15階ほどの高さです。操作室から地上を見ても、人の存在はわかりません。コンテナヤードは流通を止めないよう昼夜を問わず動いているため、作業は早朝と昼食時の1時間のみに限定されます。時間内に食毒剤を散布し、決められた区画内で無駄なく、効率良く作業しなければなりません。ヒアリのほか、アカカミアリ、アルゼンチンアリも見つかっており、今後新たに特定外来生物のコカミアリが見つかるかもしれません。
(2021年10月号掲載)

※ 外来生物のうち、日本の在来生物の生態系や人命、農林水産業などに被害を及ぼすおそれのある生物

アライグマの被害

 アライグマの急激な増加は、昔の人気アニメの影響などでペットとして飼い始めたものの、成獣になり気が荒くなると飼育に耐え切れなくなり遺棄されたものが増えてしまったのが原因だといわれています。
 アライグマは雑食性で、環境適応力が高い動物です。日本では同じ生息圏に住むタヌキ、アナグマと競合し、農業上の被害も報告されています。そして、被害は私たちの居住空間でも急増しています。イヌやネコほどの大きさですので、一般家庭での被害は天井裏に侵入しての糞尿の害、騒音などですが、そのような生きものに侵入されるだけで不快です。
 公益社団法人日本ペストコントロール協会で集計したアライグマの相談件数は2014年には95件でしたが、2020年には858件と約9倍に急増しています。被害の季節的な消長では5月にピークがみられ、これは春季の3~4月頃に誕生した個体が活動できるようになる頃にエサの豊富な生活圏に移ることで被害が発生するためではないかと考えられています。なお、都道府県別の相談件数では兵庫県が最上位ですが、同様に相談件数の多いハクビシンが東京都、埼玉県、神奈川県と関東に集中しているのに対して中部関西圏で相談件数が多いのは興味深いと思います。まだ日本では報告されていませんが、アライグマ回虫という恐ろしい人獣共通感染症を媒介することでも知られています。
(2022年11月号掲載)

セアカゴケグモ

 セアカゴケグモは、メスの背中側の斑紋が赤く目立つことと交接(交尾)後にメスがオスを食べるという説に基づく「後家(ごけ)グモ」から、その名が付いたといわれています。
 オーストラリアが原産地とされ、日本国内では1955年に大阪府の臨海部を中心とした地域で初めて見つかり、問題となりました。主に排水桝のグレーチング※ 、自動販売機の下、公園の水抜き穴などに好んで棲(す)み、そのような隙間に強い糸で不規則な形の網を張ります。おとなしい性格で攻撃性はなく、素手で捕まえようとしなければ咬(か)まれることはありません。メスは卵のうを1回に3~5個作り、そこから500匹ほどの子が生まれます。生まれた子は、おしりから糸を出し風に乗って飛ぶこともできるため、拡散してしまいます。
 建築資材などに紛れ込み海外から侵入したとみられ、生息範囲の拡大を警戒していましたが、2020年7月時点で、セアカゴケグモの未発見地域は青森県と秋田県のみになり、日本をほぼ制覇してしまうほどの広がりをみせています。このように外来生物が侵入すると、気づかない間に定着したり、土着の生物と入れ替わったりすることが知られています。ヒアリ類などの外来性アリ類でも、気を付けないとセアカゴケグモと同じことが起きるかもしれません。
(2023年11月号掲載)

※ 格子状のふたで、鉄やステンレスなど金属製のものが多い

ミドリガメ

 近くの池を覗くと、カメが甲羅干ししている姿や、水中から顔を出している姿をよく見かけます。最近は、そのほとんどがミシシッピアカミミガメです。本種の幼体は「ミドリガメ」と呼ばれ、かつてはペットショップや縁日で売られていました。幼体のときはきれいな緑色なのですが、成体になるとその色はなくなり、顔の赤い斑紋のみが残ります。ミドリガメは、海外から輸入されたペット類の中では、最も多くの数が安価で販売されました。飼育が容易であったため、飼う人も多かったのですが、飽きられて近くの池に放されることも多かったようです。本種は水質の汚染にも強く、また汽水域でも生息できます。繁殖力はほかのカメと比べものにならないほどであり、いつの間にかニホンイシガメの生息していた池のカメは本種に置き換わってしまいました。
 一方、ミドリガメのようにきれいでかわいいカメとは異なり、かつて一世(いっせい)を風靡(ふうび)した「ガメラ※ 」を想像させるカミツキガメ。こちらの野生化も問題です。本種は成長するにつれ大型になるため、自宅で飼いきれなくなり手放すのでしょう。カミツキガメは凶暴で、ヒトの指なら食いちぎれるくらいの力があります。水中に潜んでいることが多く、池などに手を入れることは非常に危険です。
 現在は特定外来生物法により勝手に遺棄すると法律で罰せられます。
(2023年12月号掲載)

※ 1965年公開の特撮映画『大怪獣ガメラ』に登場するカメに似た巨大な怪獣

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