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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

カビ毒なぜなぜシリーズ

元国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部 部長 小西良子

なぜ「総アフラトキシン」として基準値が設定されたのか?

 皆さんは、アフラトキシンというカビ毒をご存知ですか。1960年にイギリスでの七面鳥大量死をきっかけに発見された化合物で、アスペルギルス・フラバスというカビが産生する毒素(2次代謝物)です。発見の経緯から、菌の頭文字をとって「ア-フラ-トキシン」と命名されました。
 アフラトキシンは、天然化合物で最も発がん性が強いといわれています。発がん性のあるカビ毒ですから、食品には含まれてほしくないということで、国際的に規制値が設けられています。食品中に含まれるアフラトキシンとして、アフラトキシンB1、B2、G1、G2、M1、M2が知られています。そのなかで、アフラトキシンB1、B2、G1、G2をまとめて総アフラトキシンといいます。
 日本では2011年まで、アフラトキシンB1(以下、AFB1)のみを規制する基準値が設定されていました。なぜなら、当時の代表的なアフラトキシン産生菌であったアスペルギルス・フラバスはAFB1、B2しか産生せず、AFB1が最も発がん性が高いということが科学的根拠となったからです。しかしその後の調査で、2000年以降はアスペルギルス・フラバス以外のAFB1、B2、G1、G2を産生するカビの食品汚染の増加が明らかになってきました。そのため、基準値がAFB1のみではなく総アフラトキシンとなったのです。
(2020年9月号掲載)

カビが生えたら、食品はすべて捨てるべき?

 カビは、酸素と適度な温度と湿気があれば増殖します。また、食中毒菌とは異なり胞子が大きいため容易に目につきます。カビには有益と有毒の両面性があり、食品中で増殖すると異味・異臭などを引き起こす一方、鰹節やカマンベールチーズなど、あえて安全性が担保されたカビをつけることで風味や保存性を高めている場合もあります。
 本来あるはずのないカビが生えている場合、その食品は安全なのでしょうか。答えはノーです。食品の表面にカビが確認できる場合、すでに内部にまで菌糸が広がっている可能性があります。また、カビが発生したということはそのほかの雑菌や食中毒菌が増殖している可能性もあります。カビのなかにはカビ毒を出す種類がありますが、増殖したカビがカビ毒を産生する種類かどうかは、一般の消費者にはわかりません。そのためカビが生えた食品は、その食品ごと廃棄することが賢明です。
 では、うっかり食べてしまった後にカビが生えていたと気づいたらどうすればよいのでしょう。ご安心ください。消化管を介してカビが体内に入ったとしても、通常であれば24時間ほどで便とともに排泄されますし、カビの増殖はとてもゆっくりなのでその間にはほとんど増殖しないのです。カビの部分だけを一度に大量に食べたり毎日食べたりしなければ、誤って食べてしまった程度で健康被害が起こることはありません。
(2020年10月号掲載)

「総アフラトキシン」を規制の対象にしたメリットとは?

 食品衛生法により、平成24年よりアフラトキシンB1(AFB1)から総アフラトキシン(TAF)に規制の対象が改訂されたことにより、どのくらいメリットがあったのかを検証してみたいと思います。
 「厚生労働省 輸入食品等の食品衛生法違反事例一覧」から平成24年度以降のアフラトキシン規制違反例を抜粋し、解析をしてみました。その結果、違反例が多い食品トップ5は小粒、大粒および加工品を含めた落花生、アーモンド、ピスタチオなどのナッツ類、スパイス、乾燥イチジク、とうもろこしでした。輸出国は食品と同様に多様化していますが、落花生では中国とアメリカが、アーモンド、ピスタチオではアメリカとイランが、乾燥イチジクでは、アメリカ、トルコ、イランが、香辛料では中国、インド、パキスタンが、とうもろこしでは、アメリカが違反例の多い国として挙げられました。違反事例における、いわゆるAFB群(AFB1、AFB2のみの汚染)、AFBおよびG群(TAFとしての汚染)の比率を比べてみると、年度や輸出国によって違いはありますが、明らかにAFG群のほうが高い場合も多く見られます。AFB1のみを対象としていた以前の規制では見過ごされていた汚染食品が、TAFを対象としたことで違反となり、市場には流通しなくなりました。規制を策定するだけではなく、今後は定期的な検証が必要だと思います。
(2020年12月号掲載)

総アフラトキシンの規制が全食品10μg/kgなのはなぜ?

 日本が1966年から加盟しているコーデックス委員会は、FAO※1 およびWHO※2 により1963年に設置された国際機関で、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、国際食品規格の策定などを行っています。日本の食品の成分規格を策定する場合は、コーデックス規格を遵守する必要があります。
 コーデックス規格では、総アフラトキシンの最大基準値は落花生(加工用原料)と加工用木の実※3 が15μg/kg※4 、直接消費用木の実※3 が10μg/kgと決められており、加工用と直接消費用とでは規格が違います。しかし、日本ではすべての食品に10μg/kg未満という規制が設定されています。なぜ加工用を設定しないかというと、日本では製造工程の違いによる成分規格検査が徹底されていないことが挙げられます。輸入時に加工用の落花生の成分規格検査をしたとしても、それを加工して出荷するときに検査をする制度にはなっていません。この背景を考慮して、日本では一律10μg/kg未満としています。
 また、日本では全食品が対象になっていますが、これはとうもろこしをはじめとして輸入食品の原材料が多岐にわたっており、総アフラトキシンの成分規格を個々の原材料に設定するより、全食品を管理したほうが国民の健康被害に与える影響は低くできると考えているからです。
(2021年1月号掲載)

※1 国際連合食糧農業機関
※2 世界保健機関
※3 アーモンド、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ
※4 マイクログラム・パー・キログラム。1μg/kg は、1kg の中に1μg(100万分の1グラム)の物質が含まれていることを表す

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