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3/31

2025

人生永遠のテーマを追った作家 向田邦子(19)「マンハッタン」(筋書き)

 38歳で会社が倒産し無職になった睦男は、妻の杉子と別居し一人で無為に生活をしています。両親は離婚し父は家を出ましたが、母の遺したアパートの家賃収入があり、すぐには生活に困りません。潰しのきかない事務職の経験しかなく、働こうと思っても気力がわかず、その様子に嫌気がさした杉子は家を出てしまいました。杉子は歯科医で、生活力は旺盛。ルックスも良く理が勝り、診療所勤めだった彼女は、稲田という男の経営するモダンな歯科クリニックに引き抜かれていました。
 ある日、たまに買いものをしていたコロッケ屋が閉店し、そこが工事中なのに気がつきます。その場所がマンハッタンというスナックになるらしいと聞くと、睦男はその店のことが気になって仕方がありません。やがて開店したマンハッタンの常連になりました。それは、睦男が開店前の改装工事中にお店を覗いていたところ、頭に工具が落ちて負傷し、店のママが見舞いに来たことに端を発し、開店後に特別な客として遇されたためでした。睦男はスナックでの扱いの良さに上機嫌になり、あれこれ手伝いをすることで、快活さを取り戻していました。やがてマンハッタンは夜逃げ同然に店を閉め、いつもいた常連の八田がママの亭主だったことを知ります。そして睦男は再び無気力な日々に戻ってしまいました。かつて睦男の父がそうであったかのように。

写真技術研究所別所就治

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