- 日替わりコラム
Fri
12/4
2020
語彙力の重要性が強くうたわれています。コミュニケーションをうまくとるには、言葉を多く知っていたほうがよいに違いないでしょう。かといって、辞書にある言葉を片っ端から覚えていくようなわけにもいきません。どのような語彙をどのくらい覚えればよい、という目安はないのです。では、どんなことを意識しておくとよいでしょうか。
まず、自分の職業や研究、趣味に関わる語彙は、妥協せずに詳しく学ぶことです。たとえば、「拘縮(こうしゅく)」、「清拭(せいしき)」、「移乗(いじょう)」、「ADL※ 」といった用語は、介護の分野で使われる語彙の一部です。一般の人にはあまり知られていない言葉ですが、関係者にとっては欠かせません。同じ仕事や趣味などに通じている人の間では、その分野に特有の語彙に精通していることによって、円滑な意思疎通が実現します。
一方、ふだんの生活における伝え合いを助けるのは、専門用語よりも誰もが知っておきたい語彙です。これらを身につけるには、自分の言いたいことがうまく伝わらないなと感じたときに、別の表現やいろいろな言い換えを考える習慣を持つことです。たとえば「変わる」という言葉は、主語によって「色が変化する」、「街並が変容する」、「予定が変更される」などと言い換えられます。似た意味の言葉の中から、場面や文脈にふさわしいものを選ぶ努力が語彙を増やすことにつながります。
※ Activities of Daily Living の略。日常生活のなかで生じる基本的な動作
文化庁国語課 国語調査官武田康宏
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