- 日替わりコラム
Wed
4/14
2021
言葉は丁寧なのに失礼に見えることを、「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」などと言います。文法的に正しい敬語をたくさん使っていれば問題ないというものではありません。かえって、相手をないがしろにしたり見下したりしているように映ってしまうことさえあるのです。
敬語は、相手に敬意を表すための言葉ですが、場合によっては戦略的に使うものでもあります。たとえば、店員が客に対して敬語を使う背景には、買い物をしてもらえるかもしれないという期待もあるでしょう。利益をもたらしてくれる相手だからこそ、敬語で話すという戦略的な面があるのです。いつも立ち読みや味見ばかりで商品を購入しない客には、ぞんざいな言い方をするようになってもおかしくありません。
また、敬語には、相手を遠ざける働きがあります。親しくなりたくない人に対しては、むしろ丁寧な言葉を使うという経験はないでしょうか。人は仲良くなればなるほど、言葉遣いもより親しげになって、だんだんと敬語が少なくなるものです。丁寧さの度が過ぎると、まるで拒絶されているように感じる人もいることでしょう。
敬語の戦略的な側面や、人を遠ざける面が目立ってしまうと、相手にはかえって失礼に聞こえるおそれがあります。相手に親しさを示すことも意識しながら、バランスのとれた言葉遣いを探りましょう。
文化庁国語課 国語調査官武田康宏
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