- 日替わりコラム
Thu
5/6
2021
新緑の樹々、アウトドアレジャーの季節です。テントの前室は爽やかな風や柔らかな光の中、穏やかな時間を過ごす場所となります。
前室とは、建物の主室の環境を一定に保つために入り口に設ける部屋のことです。テントの前室も外気の影響を軽減する空間ですが、テラスとしても活用されています。クリーンルームの前室は、一般環境の塵埃(じんあい)などを清浄環境へ持ち込まないようにするための場所です。劇場や音楽ホールの客席は二重扉になっていて、内側と外側の重い扉の間の空間が前室と呼ばれ、遮音のために設けられている場所です。
4月号でご紹介した「風除室」も、冷気や暖気、粉塵の侵入軽減のための前室の一種です。美術館や博物館には、ほかにも前室の機能を果たす場所が複数あります。文化財公開施設では、展示室は観覧者の出入りによって外部環境の影響を受けないこと、文化財の出入り口は搬出入時の外気の影響を避けること、文化財を保管する収蔵庫には必ず前室の機能を持つスペースを設けることなどが求められるからです※ 。
美術館・博物館は、空調の制御と前室により外部環境の影響を防ぎます。館入り口に風除室、展示室入り口に扉やスペース、あるいは二重扉による前室の機能を設けてさらなる影響の軽減をはかります。美術館・博物館の前室は、文化財が置かれた環境の穏やかさを支える場所なのです。
※ 「文化財公開施設の計画に関する指針」文化庁HPより
放送大学 客員教授・九州国立博物館 名誉館員・一般財団法人 環境文化創造研究所 顧問本田光子
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