- 日替わりコラム
Mon
6/7
2021
ある消費者がデパートの催事場で、すし弁当を購入して自宅に持ち帰りました。2日後に食べようとしたところ、弁当からの異常な臭い(シンナー臭)に気づき、薬品の使用を疑って保健所に届け出ました。弁当の消費期限は販売当日中でしたが、届け出者は冬の室内の涼しい場所に保管していたので問題ないはずと思い込んでいました。
デパート催事場で同じ日に製造・販売されたすし弁当に同様の苦情はありませんでした。苦情品の分析検査の結果では、高濃度のエタノールと酢酸エチルが検出され、酵母数(主にピキア・アノマーラ※1 )は弁当食材1g当たり約1億個でした。
一般的に、酵母は細菌より低い温度帯や弱酸性域でよく生育します。消費者宅に保管されたすし弁当は2日間で酵母が増殖し、その過程でエタノールや酢酸エチル(シンナー臭の主因)が産生されてしまいました。
新型コロナウイルス感染予防のための消毒剤として注目度の高いエタノールですが、食品製造の現場では以前からその殺菌効果と利便性から広く使用されてきました。しかし、本事例の原因酵母のようにエタノールによる殺菌効果が期待できないだけではなく、エタノールを資化※2 して異臭の原因となる酢酸エチルを産生する酵母(微生物)が存在するということを知っておくことも、食品事故の未然防止のためには大切です。
※1 Pichia anomala:酵母の一種で、ケーキ、パン、いなり寿司などで増殖すると酢酸エチルを産生し、シンナー臭の原因となる
※2 微生物が何かを栄養源として利用すること
公益社団法人 日本食品衛生協会 技術参与・一般社団法人 関東学校給食サービス協会 顧問谷口力夫
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