- 日替わりコラム
Tue
11/23
2021
DONというカビ毒をご存知でしょうか。食品を汚染するデオキシニバレノールという舌を噛みそうなカビ毒の名前の略で、日本を含む温帯地域に好んで生息するフザリウム属という植物病原真菌が産生します。これに感染した小麦粒は赤くなるため、赤かび病とも呼ばれています。特に麦類を好み、麦の開花期に感染して増殖し、DONを産生します。
DONをある量以上摂取すると嘔吐、下痢などの消化器障害を起こします。第2次世界大戦下の食料不足の日本では赤かび病におかされた麦も食用としたため、各地で食中毒事件が多発しました。
DONが日本で注目されたのは、2001年に開かれたJECFA※1 の会議が発端です。この会議でDONのリスク評価が行われ、研究者として参加していた熊谷進氏(元食品安全委員会委員長)とDONの発見者である芳澤宅實氏(元国立大学法人愛媛大学監事)は帰国後、緊急で麦類中のDONを測定するよう関係者に働きかけ、国産・輸入小麦の調査が始まりました。その結果、国産小麦に比較的高濃度のDONが含まれていることがわかり、厚生労働省は速やかに暫定基準値を設定しました。そして約20年を経た2022年4月から、暫定が取れて正式に基準値※2 となります。この機会に、DONについてのよもやま話をしていきたいと思います。
※1 食品添加物や汚染物質などの食料品の安全性評価を行う国際的な専門家会議
※2 玄麦を対象として1.0mg/kg
元国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部 部長・一般財団法人 環境文化創造研究所 顧問小西良子
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