- 日替わりコラム
Thu
4/14
2022
「犬は89単語もわかる⁉」。これは昨年末、カナダのキャサリン・リーブ氏らの研究を紹介した東京新聞のタイトルです。犬が飼主の言葉を理解できることは従来から広く知られていましたが、多くても50単語程度だと思われていました。それが165頭を対象にしたリーブ氏らの研究では、「最大で215単語、最小でも15単語、平均で89単語がわかる」という結果が出て驚きました。
しかし、犬は言葉だけではなく、人間の振る舞いの意味を理解できることが知られています。たとえば、飼主が遠くにある新聞を指さすと、「あれを持ってこい」という意味であることを理解します。これは、知能が高いチンパンジーにも真似のできない能力です。面白いことに、手の指だけではなく、足指で示しても同じように理解できることがあります。
このように犬は非言語的な人間の合図を理解できますので、言葉ではなく、人間が無意識に発している合図を理解しているのではないかという考え方もできます。そこでリーブ氏らは、フェンソン氏らの報告「人間の乳児の言語理解に関する手法」(2007年)を応用して、犬が人間の言葉を理解していることを明らかにしようと努めました。しかし、動物に対して非言語的な合図を排除することの困難さを知っている私は、「犬が89単語を理解する」ことには懐疑的です。
一般財団法人 環境文化創造研究所 名誉所長林良博
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