- 日替わりコラム
Thu
6/9
2022
トビイロウンカなどのウンカ類は、イネの茎から吸汁して水田で坪枯(つぼが)れ※1 を引き起こします。かつては、それが原因で飢饉が起こりました。今から半世紀前、いくつかの種のウンカが南方から毎年風に乗って日本にやってくることがわかりました。最初は少数なのですが、急速に繁殖して秋の収穫前にはイネを枯らすほどの数になります。初めは水田にわずかな数しかいないウンカの雄と雌は、どうやって互いを見つけるのでしょうか。ウンカは鳴きませんが、雌には腹部を震わせる行動があることが知られていました。しかし、なぜそんな行動をとるのかは不明でした。
ウレタン片に刺したイネ苗とトビイロウンカを雌雄一頭ずつガラス管に入れて、観察しました※2 。雌が腹部振動をすると、ウレタン片に留まっていた雄は即座にイネの茎を登って雌の探索行動をとりました。このとき、すぐ近くにいてもガラスに留まっていた雄は無反応でした。さまざまな実験を繰り返した結果、雌の腹部振動がイネを振動させ、その振動にオスが反応することがわかりました。さらに、雄も振動を発し、互いに交信していることもわかりました。別種のウンカも似た振動を出すのですが、同種の振動にしか反応しませんでした。これは、独特な振動による交信が昆虫で利用されていることを日本で初めて証明した画期的な研究となりました。
※1 水田の中で、穴があいたように突然、イネが枯れる現象
※2 『昆虫の発音によるコミュニケーション』宮武頼夫編 北隆館 2011
「Ⅲ―2 ウンカ類における基質振動によるコミュニケーション」市川俊英 pp.192―207.
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
全部または一部を無断で複写複製することは、著作権法上での例外を除き、禁じられています
- アクセス