イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

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2022

雨間(あまま)に匂う梔子(くちなし)

 梅雨の時期に咲き競うのは多彩な色合いのアジサイですが、雨間に匂うのは梔子です。静岡以西の山地で自生していますが、園芸品種もよく見かけます。私が植えた梔子はオオスカシバの大きなイモムシに食べられ、なかなか花が咲きません。その後、大きな蛾に変態したオオスカシバが枝にとまっていて、本心ではとても悔しいです。それでも、柚子(ゆず)でアゲハチョウの幼虫がたくさん育つなど、街中(まちなか)の小さな庭でも生物多様性保全に貢献していると思います。
 梔子は果実が裂開(れっかい)しないので、口がない実の意味から「クチナシ」と呼ばれます。将棋盤や碁盤の足の形は梔子の実をかたどっており、「打ち手は無言、周りの人は勝負に口出し無用」の意味が込められているのです。梔子の果実は、薬や布の染色に用いられます。天然色素として、食品の黄着色にもよく使われています。花は湯がいて三杯酢などで食されます。ジャスミンに似た匂いをもち、香水にも用いられます。
 梔子は、詩集や歌の題名に多く見られます。花言葉は、「優雅」、「喜びや幸せを運ぶ」、「胸に秘めた愛」などです。渡哲也さんのヒット曲『くちなしの花』は、多くの歌手にカバーされました。海軍に志願して戦死された宅嶋徳光さんの手記を遺族がまとめられた『くちなしの花』は英訳もされて内外に広く知られ、ドラマや芝居にもなりました。

東京学芸大学 名誉教授・植物と人々の博物館 研究員木俣美樹男

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