- 日替わりコラム
Thu
7/7
2022
美術館や博物館での子どものいる風景について、3回にわたりご紹介しました。今回は、かなり昔に海外で遭遇した2つの光景をお伝えします。
1つは、30年前にイタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館で体験した驚きと納得の場面です。ボッティチェリ作『ヴィーナスの誕生』が展示されている部屋に入った途端、目に入ったのは絵の前の床に直に座っている子どもたちでした。一瞬びっくりしましたが、思い思いの格好で鑑賞に集中している彼らの真剣なまなざしと静けさゆえからか、その存在はすぐ気にならなくなり、ともに名画に魅入ったことを覚えています。
2つめは、20年前にアメリカ・ワシントンのナショナルギャラリーオブアートで経験した和やかな空間です。展示室中央の長椅子で寄り添う、白髪の年配男性と小学校高学年くらいのおさげの少女がいました。目前の絵画をじっと見つめながら小声で語り合う祖父と孫かもしれない2人の楽し気で優しく穏やかな後姿が、前方の壁の絵画を背景にしっくりとおさまっていて、まるで映画の1シーンのように思い出します。
2つの光景は、世界中から大勢の人々が訪れる海外の有名な館で観光客の一人としてひとむかし前に目にした思い出ですが、その後、日本の館でも同じような幸せな雰囲気に出会うことは珍しくないように感じています。展覧会では、時には子どものいる風景も楽しんでみませんか。
放送大学 客員教授・九州国立博物館 名誉館員・一般財団法人 環境文化創造研究所 顧問本田光子
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