- 日替わりコラム
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10/7
2022
蚊はマラリア、黄熱、デング熱、ジカ熱などの原因であるウイルスを伝播し、これらの蚊の媒介による感染症のため、世界中で毎年100万人以上の人々が亡くなっています。マラリアなどに感染したマウスからは、蚊を多く引きつける「ある匂い」が出されることが知られています※1 。また、デング熱やジカ熱のウイルスに感染したマウスは、非感染マウスより多くの蚊を引きつけるという結果も得られました※2 。
この匂い成分を調べたところ、アセトフェノンという物質であることがわかりました。次に、この匂いが作られる仕組みを調べてみると、蚊が伝播したウイルスが感染マウスの皮膚の表面に存在するバクテリアの繁殖を促し、そのバクテリアが匂いを放出していることがわかりました。そのバクテリアの繁殖は通常、ある抗菌物質によって抑えられているのですが、感染マウスではその生成が抑制されていたのです。興味深いことに、その抗菌物質はビタミンAによって増加することから、感染マウスにビタミンAを与えてみました。すると、そのマウスは非感染マウスのようにあまり蚊を引きつけなくなりました。
同じことが人間でも起こるとすれば、アフリカなどで蚊によって伝播される、ウイルスによる病気で苦しむ人々にビタミンAを補給することで、感染率を下げることができるかもしれません。
※1 De Moraes CM et al.(2014)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111: 11079―11084.
※2 Zhang H et al.(2022)Cell 185: 2510―2522.
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
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