- 日替わりコラム
Tue
5/2
2023
残雪が気づかせてくれることがあります。山の伐採も、そのひとつ。地肌の雪が遠くからでも見えるようになり、森の消失を知ります。近年、うっそうとしていた里山の竹林やスギ林、二次林の伐採が各地で進み、急増した野生動物の対策や、放置森林管理のための伐採・造林が行われているのです。その結果、放置され暗かった森が明るくなり、所々の林床に陽が差しこんで、里山にパッチ状※ の草地ができつつあります。
草地や明るい森の拡大は里地でのクマの出没が減る反面、激減したノウサギ復活の兆しが聞こえてきます。林縁の草地は、ノウサギの最適な餌場だからです。ノウサギだけではなく、菌類、植物、土壌生物、昆虫類、ネズミ類、それを食べるヘビやフクロウ、猛禽、キツネ、イノシシ、シカなどすべての生きものに影響を与えるでしょう。
繁殖力が強いノウサギの増加は、林業被害をもたらします。増えてからの対策は大変です。日本の鳥獣対策は、増えて害を及ぼすに至った個別種を選択的に駆除するやり方に終始し、常に後手に回ってきました。
ノウサギ復活の兆しは、里山の命の網の目が変わる兆しともいえます。被害が出てから腰をあげる個別種への対症療法を卒業し、腰を据えた生態網全体の動態把握(モニタリング)と科学的管理をする社会にすべきです。それが、人と国土の多様性を守る根本だと思うからです。
※ パッチワークの布のように、複数のものが混ざりあっている状態
富山市ファミリーパーク 名誉園長・元日本動物園水族館協会 会長山本茂行
全部または一部を無断で複写複製することは、著作権法上での例外を除き、禁じられています
- アクセス