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Tue

8/15

2023

再生への百日紅(さるすべり)

 敗戦の青空に咲いていたのは百日紅だったと想います。私はまだこの世に生まれていませんでしたが、8月の盛夏に似合う百日紅がきっと咲いていたことでしょう。
 家族の歴史の中で、父は3か月だけ呉(くれ)の海軍にいて、松根油を搾っていたそうです。祖父はシベリアに徴兵されました。私は学生の頃、帰省した際に「ベトナムに平和を!市民連合」のデモに通りすがりに飛び入り参加したら、地元新聞の一面に写真が大きく掲載され、父に見つかってしまいました。今まで私自身は幸運にも、この程度の戦争体験です。
 私が想いを馳せた敗戦の日に、百日紅を題材に和歌や俳句を詠まれた方が確かに幾人かおられました。
 「百日紅 色おとろへて 咲き居たり いくさ敗れし 日の炎天に」(蒔田さくら子)。戦い終わって安堵した瞬間に、戦時には気にも留められないでいた花が目に飛び込んできたのでしょう。
 相模原市の亀ケ池八幡宮の大鳥居前にも咲いていました。
 百日紅は江戸時代に中国南部から渡来しました。花の色は赤紫から白までありますが、真夏の晴天には明るい赤が似合うと思います。花言葉は雄弁、愛嬌、不用意、あなたを信じる、世話好き、などがありますが、猿も滑るほどの美しい木肌で、的確な含意をもった表現です。

東京学芸大学 名誉教授・植物と人々の博物館 研究員木俣美樹男

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