- 日替わりコラム
Mon
11/6
2023
昆虫の中には発音するものが多く、セミやコオロギの鳴き声は、夏や秋の風物詩として私たちの生活に結びついています。
控え目で目立ちませんが、バッタやイナゴも多くの種類が発音します。有名なのがショウリョウバッタで、オスが飛翔中に「キチキチ」と鳴くのでキチキチバッタとも呼ばれます。日本に広く分布するツチイナゴも「チッチッチッ」と小さく発音します。キチキチバッタ同様、鳴くのはオスです。メスはめったに鳴かないので、配偶行動と関連しているようです。
調べてみると、発音は交尾中にオスがメスの背中に乗っているときに起こることがわかりました※1 。メスがオスをおんぶしているこの格好はイナゴ類では一般的で、オンブバッタなども有名です。オスはメスの体の左右のどちらか一方から腹部を曲げてメスの交尾器に到達します。オオカマキリはすべて右利きですが※2 、ツチイナゴは右利きと左利きが半々です。オスは後ろ脚の末端の蚹(ふ)節をメスの翅や腹部に1セット3~4回こすって発音します。興味深いことに、メスの右(左)から腹部を曲げてアプローチしたオスは左(右)脚を使います。これは発音の時にメスの体の上でバランスをとるためと考えられます。この発音行動は、交尾を成功させるためにメスをなだめていると考えられています。
※1 Tanaka S(2023)Journal of Orthoptera Research 32(1): 93―108.
※2 安藤喜一(2021)『カマキリに学ぶ』北隆館
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
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