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Thu

2/15

2024

身近な生物毒素(1)ボツリヌス毒素

 ボツリヌス毒素はバイオテロに用いられるおそれがあり、国家危機管理の枠組みとして国際的に注意喚起がなされる対象物のひとつです。国内ではオウム真理教がボツリヌス菌の空中噴霧を企てた事例もあり、社会・生命を脅かす非常に危険な毒素です。
 ボツリヌス菌を培養したあとに得られる毒素を高純度に精製すると、マウス1匹を数十pg(ピコグラム※ )で死亡させます。身近なもので表現した場合、20gのマウスを象くらい大きくしたとしても、およそノミの重量のボツリヌス毒素があれば殺すことができるということになります。これが地球上で最強の生物毒素と言われている理由です。
 一方で、ボツリヌス毒素は、筋肉が異常に緊張する疾患であるジストニアの治療に医薬品として優れた効果を発揮し、また美容医療ではシワ取りなどの治療に広く利用されています。
 医薬品として管理されたボツリヌス精製毒素を美容医療の現場で使用する理由は、毒素の働きにより緊張している筋肉の活動を停止(弛緩性麻痺)させるためです。シワ周辺の筋肉は常に引きつっている状態なので、この緊張が和らぐことで、シワが消えるという現象が起きます。顔面の筋肉にボツリヌス毒素を注射すると、同様に筋肉が活動を停止した結果、使わない筋肉は細くなるために小顔になるようです。

※ g(グラム)の1/1000がmg(ミリグラム)、以後1/1000小さくなるとμg(マイクログラム)、ng(ナノグラム)、pgとなる

熊本保健科学大学 生物毒素・抗毒素共同研究講座 特命教授髙橋元秀

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