- 日替わりコラム
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4/12
2024
クマやシカなどの哺乳類は、北上するにつれて体が大きくなる傾向があります。これは「ベルグマンの法則」として知られており、寒冷地では体が大きいほうが体温維持に有利であることが要因のようです。昆虫の体の大きさも実にさまざまで、アリの巣に棲むアリヅカコオロギは0.002g、ニュージーランドに棲むカマドウマ科のウエッタは70gにもなります。
昆虫は変温動物なので、哺乳類とは少し事情が異なるようです。日本に広く分布するエンマコオロギは、南下するにしたがって徐々に大きくなります※1 。これは「逆ベルグマンの法則」と呼ばれ、発育できる季節が北上するにつれて短くなるためだといわれています。一方、シバスズやマダラスズというコオロギは、南下するにつれて体サイズの変異パターンが変化します。北海道と東北地方までは南下するにつれて大きくなるのですが、関東地方では急に小型化して、さらに南下すると今度は大きくなります。これを発見したのは故・弘前大学名誉教授の正木進三で、「マサキのクライン」と呼ばれています。最近、トノサマバッタでもマサキのクラインが見つかりました※2 。これらの昆虫では南下するにつれて年1世代から2あるいは3世代の生活史が展開され、それに応じて体サイズが変化するのです。
※1 『昆虫の生活史と進化:コオロギはなぜ秋に鳴くか』正木進三著 中公新書 1974
※2 Tanaka S(2024)Journal of Orthoptera Research 33: 27―40. (https://doi.org/10.3897/jor.33.107242)
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
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