- 日替わりコラム
Tue
4/30
2024
平成10年の初夏、フジテレビの会議室で秋に放送する「山田太一ドラマスペシャル『大丈夫です、友よ※ 』」の話し合いが行われていました。「この台本をどなたに監督してもらいますか?」プロデューサーが山田太一さんに問いました。山田さんは、「ぜひ、深町幸男監督にお願いしたいのですが」と答えました。
深町とはNHK『ドラマ人間模様』というドラマ枠で、多くの名作ドラマをともに制作し、そのほかにも評価の高いドラマを手掛けた仲間でした。深町はNHKを定年退職後、民放で特別ドラマを連作しており、引き続き多くの賞を受賞していました。しかし周囲には、「フジテレビにも社内監督はいるのになぜ深町幸男?」という疑問が残りました。
その答えは、山田さんの心の中にありました。「お互いのことがわかり合える人にこのドラマを託したい」と考えたのです。これは山田さんご本人からお聞きしました。馴染みの人々に囲まれて、安定した力を発揮できる状況でドラマを作って欲しかったのです。山田さんはセリフの修正を認めない。その発音にも細心の注意を払う人です。しかし深町にはそれを求めず、脚本のセリフを勝手に変更しても黙認していました。「修正には意味がある。だから託してよい人だ」。相互の信頼の中で山田さんはそう思い、深町にすべてをあずけてくださったのだと思います。
※ フジテレビで平成10年11月に放送。芸術祭テレビ部門ドラマの部優秀賞受賞作品。次年は『旅立つ人と』を放送する
写真技術研究所別所就治
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