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10/4
2024
本年7月に発行された新千円札の肖像は北里柴三郎です。北里の弟子である志賀潔は、下痢患者の便から赤痢菌を初めて分離し、その菌を志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae※1 )と命名しました。この菌が産生する毒素を志賀毒素と呼んでいますが、腸管出血性大腸菌(EHEC※2 )の亜型である「O157」、「O26」、「O111」なども同様な毒素を産生します。これらの菌の毒素は、特に志賀毒素類似毒素としてSLTやStx※3 とともにミドリサル腎臓細胞(Vero細胞)にも障害毒性をもつことから、ベロ毒素(VT1、VT2)とも呼ばれています。
菌が汚染した食品を食べると、菌は腸内で増殖してベロ毒素を放出します。毒素は腸管上皮細胞・粘膜を損傷し、出血します。さらに血管内側の細胞(内皮細胞)を死滅させるため、腎臓や脳で血栓症による重篤な障害を引き起こします。
国内外で多くの感染事例がありますが、その原因食品として、牛肉、牛レバー刺、ハンバーグなどの肉製品やサラダ、かいわれ大根・キャベツなどの野菜類、日本そば、ハンバーガーなどが報告されています。このように腸管出血性大腸菌はさまざまな食品や食材から見つかっているので、微生物管理の基本である食材・食品の洗浄や加熱など、衛生的な取扱いが大切です。
※1 1919 年の発見者であるShiga博士の語尾に[-ella]をつけるラテン語の細菌属名規則による表記
※2 大腸菌O157 などが属する腸管出血性大腸菌はEnterohemorrhagic Escherichia coli(EHEC)と呼ばれており、
培養した細胞(ミドリサル腎臓細胞:Vero 細胞)に感受性を示す
※3 SLTは志賀類似毒素Shiga Like Toxinの略、StxはShiga Toxinの略
熊本保健科学大学 生物毒素・抗毒素共同研究講座 特命教授髙橋元秀
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