- 日替わりコラム
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10/14
2024
仕事の上で失敗をして困っている人に手を差し伸べるべきか悩んでいるとします。「情けは人のためならず、って言うじゃないか」とアドバイスをもらったら、あなたはどのように受け取るでしょうか。
文化庁の「国語に関する世論調査」によると、10代後半から50代までの人では、「情けをかけて助けてやることは、結局その人のためにならない(→厳しく接するほうがいい)」という意味だと考える方が多いようです。しかし、辞書を引いてみると事情は異なります。「人に情けをかけておくと、巡り巡って結局は自分のためになる(→助けてあげたほうがいい)」というのがもともとの使い方なのです。
誤解はなぜ起きるのでしょうか。「ためならず」は、古い言い回しです。「ためなり(ためである)」を打ち消して「ためならず」、つまり、「人のためではない(自分のため)」というのが本来の意味です。ところが現代においては「なり」を動詞の「なる」と勘違いし、「ためになる」の否定形「人のためにならない」と読んでしまうのです。
慣用句をはじめとする古くからの言葉の中には、時間の経過によって本来とは違う意味で使われがちなものがあります。特に年齢差のある人との会話では、相手の使っている意味と自分の理解との間に食い違いがないか、注意が必要になる場合もあるでしょう。
文化庁国語課 主任国語調査官武田康宏
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