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2024

人生永遠のテーマを追った作家 向田邦子(16)「大根の月」(後編)

 「あのことがあって、かれこれ1年になるというのに、英子は指という字が怖かった」。向田邦子さんの名著『思い出トランプ』の一編「大根の月※ 」は主人公・英子の回想から始まり、そして指が怖くなった理由が広く深く語られていきます。このホラー映画調の始まりは、短編で一気に読者の心を掴むに十分な表現を有していました。
 この作品は、父の早世により母子家庭として育った秀一と母・芳子の関係の中に入り込んだ英子の悲劇が連綿と語られていきます。マザコンの秀一と結婚した英子は、芳子にとっては大切な息子を略奪された敵です。孫である健太の指を英子が包丁で切り落としたことを口実に、秀一を取られた芳子の恨みは形を変えて現れます。それをよく示すのは、事件後に健太がおばあちゃん子になったことよりも、英子が持っていた包丁を芳子が安売りの文化包丁に変えてしまったことです。その人にとって気持ちのこもったものを取り上げられるのは、精神的に何より辛いものです。人のつながりは一見良好に見えても、実は裏の心が存在し、あることを発端にドラスティックに反転することはよくあります。この短編の最後に秀一が英子に「戻ってほしい」と復縁を伝えますが、作中では結論は出していません。それは一番おぞましいものがある場所に戻るには、芳子がいなくなることが先決だと英子は考えたのでしょう。

※ 1989年1月に関西テレビ放送(KTV)「直木賞作家サスペンス」の1話としてドラマの放送履歴がある。
  出演者は萬田久子、辰巳拓郎、山岡久乃ほか

写真技術研究所別所就治

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